僕が君を見たのが入学した日の教室。 君はいつ僕を見つけたんだろうか。 桜舞う温かな季節。出会いと別れでいうなら、出会いと呼べるであろう今日。 僕は、公立高校に入学した。 中学時代の知り合いもいない、本当に一人から始まるここで何かしたいわけでもなく、ただ流れる月日に身を任せるつもりだった。 「僕の席は……」 名前順で配列されている机。 既に席についてる生徒もいて、名前と机の消去法から探すのはそう難しくはなかった。 「窓際最後列?」 誰もが羨み、席替えで上位の人気を誇るそこが僕の席だった。 右隣りにも前の席にもすでに生徒は座っている。 僕は声を掛けることもなく静かに席についた。 10分後。 集合時間となった教室にはすでに担任と思われる男が来ていて、入学式について話している。 一つだけ持ち主のいない座席を残し、周りの時間は流れていく。 「不変の中の異変……ってとこかな」 座席が埋まることが当然とすれば、空いているあの席は教室の均衡を崩していることになる。 誰にも気付かれぬよう小さく呟いて、僕は窓から外を眺めた。 結局のところどうでもいいのだから。 外を眺めた直後だった。 「おっくれましたー」 緊張感あるここに、楽天的な声が響いた。 開かれた前方のドアには、何の悪気も無くニコニコした青年が立っていて、 「君ね、遅刻してその態度はなんだ!」 と教師が言う限り、間違いなく席の主だ。 「すみません。色々あって」 「まぁいい。早く席に尽きなさい」 生徒を席に促して、話を再開した教師をよそに、僕の視線は彼に向いていた。 初日に遅刻であの態度、間違いなく目立つというのに何を考えているんだろうか。 「何も考えてないとか」 本当に、僕の脳では理解できない。 あれから、入学式、クラスのレクリエーションを適当に流して、ずっと考えていた。 彼の考えてることなんてわかるはずもないのに、一度動き出した僕の思考は止まらないのだ。 「ほんと、損な造りだよね」 時間は当の昔に放課後を迎え、クラスにいるのは僕ぐらいだ。 時間に焦ってるわけじゃないからいいけど。 「考えが共有出来ないのは、不便であり理想すぎるから」 「何難しい顔して、ブツブツ言ってんだよ?」 「え」 急に声を掛けられ、振り向けばそこに居たのは問題の彼で、一瞬呆気にとられた。 まさか残っているとは思っていなかったんだ。 「一日中、んな顔して疲れね? 俺には無理だな」 「君こそ、初日に遅刻してあの態度は、僕には理解できない」 気付いたときには口が勝手に開いていて、僕の悪い癖が発動する。 気になることは機会があれば本人に聞いてしまう僕の悪い癖。 「……もしかしてそれ考えてたのかよ」 それなら、やっべウケるし。 そう続けて笑う彼は僕が今までに出会ったことがないタイプで、大体嫌な顔をされるというのに。 「何も考えてねーし、申し訳なく行くより多少おちゃらけた方が教室の空気もかわるだろ?」 真面目に答えてくれて、申し訳ないと思いつつ僕は吹き出してしまった。 「あはは、君は不思議だね。僕に構うなんて」 「構うっていうか……、ただ話し掛けただけだろ」 「そう、それでも君は話し掛けてるから」 「意味わかんねぇー」 それだけ言い残して、彼は教室を去って行ったのが最初。 「で、今も君は隣にいるんだよね」 「何の話だよ?」 パック牛乳を飲みながら不思議そうな顔をする君。 教室であの空席がなければ今の僕は居ないんだよね。 そう考えれば不思議と笑えてきて。 「気がつけば君がいたんだ」 「はぁ?」 「気にしないで、大したことじゃない」 そんな君と僕のなり初め話。 ………………… お題より 「気がつけば君がいた」(c)ひよこ屋 君僕で書くには難しく、今の私では僕がなかなか掴めない。 君のほうが断然動くのだけど、君は出てこない。 なんて矛盾。 20100731 |