何が正しくて、何が間違っているのか。
 答えはどれでもなくて、自分の認めた答えだけが正解なのかもしれない。


「ねぇ、君は考えたことがある?」
「何をだよ?」

 学校の屋上から見上げる空。
 ここにいる“ヒト”は君と僕だけで、他は“ダレ”もいない。

 フェンスにもたれ掛かり、携帯を弄っていた君が、不思議そうに僕を見た。


「どうして“空”は“青い”のか」
「は?」

 不思議そうな顔をする君。
 そうだよね、“普通”に生きてたら予想もつかない問いかけかもしれない。
 でも、僕は違ったんだ。


「厳密に言えば、どうして“アレ”は“空”と呼ばれ、“青い”と表現されているんだろう」
「……。遂に、ばぐったか?」

 酷いなぁ、僕は一応“ヒト”なんだから、バクは起こさないよ。
 起こしたとしても、それは僕の“ココロ”がそうしたものなんだから。


「理論上では、空が青い理由は証明されているんだ」
「可視光線と錯乱の関係か」

「……。知ってたんだ」

 君の口からそんな単語が出てくるとは思わなかった。
 僕は目を点にして、開いた口を塞ぐことができない。


「驚きすぎた。お前は俺を何だと思ってる?」
「ごめんごめん」

 不服そうに睨んでくる君に、苦笑しながら謝罪をして。

「でも、それだけじゃ僕の疑問の答えにはならない」
「まぁ、“空”が“青い”理由を証明しただけで、“空”と表現する理由にはならないからな」

 そうなんだ。君が言ったのはあくまでも、空が青い理由であって、僕の求めている答えではない。


「ねぇ、あそこに広がっているのは何だと思う?」

 空を見上げ、指差していった僕。


「何って…、“空”だろう? ……ん?」
「そう、そこに広がっているのは“空”と呼ばれる“空間”。だから、“空”と呼ばれてるのかもしれない」

 見上げた先に広がる、空間。だから、そこは“空”と呼ばれているのかもしれない。
 そして、可視光線の錯乱によって、“青く”見えるんだろうね。

 でもさ、僕は思うんだ。


「何の理由があって、あの“空間”を“ソラ”と“表現”し、“アオ”という“名前”を付けたんだろうって」
「………」

「別に。そう呼ばなければならない“理由”はなかったんだと思う。でも、そう決めた。決められていた」

 僕はね、それが不思議でならないんだ。

 僕が存在したときには、色んなものが決められていた。
 そして、それは当たり前のこととして受け入れられ、疑問に持つ者はそういない。

『この色は青なんだよ』

 そう習ったから、それは青になっただけで、僕がそう認識したわけではない。
 そうなるように、インプットされたからそうなっただけ。


「世の中、不思議だらけなんだよね」
「そう、だな」

「でも、気付かないように作られているんだろうね」

 だから、世界は何事もなく動いているんだと思う。


「急にごめんね。変なこと聞いちゃって」
「気にするな。それに、」

 お前をわかってる“人間”は俺くらいだろう?

 そう言われ、僕は苦笑するしかない。

 ああ、そうだ。そうだった。
 誰も僕を見て受け入れてくれなかったのに、君は僕を見つけてしまったから。


「生きるって難しいよね」
「それでも、存在する限り生きるしかないんだろうな」
「……これからもよろしくお願いします」
「あいよー」

 俺が頭を下げるとそっけなく答える君。
 本当にお人よしだよね、わけわかんない僕とこれからも一緒にいるっていうんだから。

 抑えきれなかった嬉しさを声に出して、僕は“空”を見上げる。


 本日、快晴。“空”には、“青”だけが広がっている。






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 昔は何気なく受け入れていたけど、ある日ふと浮かんだ疑問。
 ここでは“空”にしているけれど、実はもっと別のもので。

 僕は、“わたし”だったり、君は“友人”かもしれなかったり。

 これ読んで、うっかり病んでしまったら本当にすみません。
 でも、気になることでもあるんですよね。

 答えは、あるようでないものなんだけれど。


2010.05.23.執筆




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