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僕たちは世界の端っこで生きている。
晶馬が悟ったのは何歳の頃だったのだろう。知らない間に常識のように刷り込まれていた。それは寒々しい鉄筋コンクリートに檻のように囲まれたあのマンションにいた頃かもしれないし、まだあの狭いけれどもぬくもりにあふれた家に5人で暮らしていた頃かもしれない。もしかしたら、5人から3人に変わった時だったかもしれない。
地球は丸いから、自分がいるこの場所が世界の中心なんだよ。
テレビでそんな言葉を聞いた。初めて聞いた晶馬は、そんなわけないじゃないかと心の中で否定した。
世間に背中を向けて生きている僕たちが、表舞台に立てるわけがないんだ。スポットライトの熱はいつか身を焼き尽くし滅ぼすものだ。晶馬はいつも思う。
両親がいなくなり、兄妹と3人で暮らしてきた日々は順風満帆なわけがなかった。両親のおこした忌まわしい事件が尾ひれをつけてあらぬ噂をたてたりと、幼いながらに世界から弾かれることを身をもって体験した。それからはひっそりと平凡に生きていたつもりだ。

たとえ世界の端にいても、冠葉と陽毬がいればそれでよかった。たとえ世界の誰からも相手にされていなくても、ふたりがいればそれでよかった。平凡であることがしあわせだったのに。
しかしその日常は、ペンギン帽を被った女王様陽毬によって壊された。荻野目苹果と出会い、ピングドラムを手に入れなければならなくなった。小さなしあわせは悲劇的な呪いにかかり、そしてついにピングドラムを手に入れた少年少女は運命の乗り換えをした。代償という犠牲も伴って。

「もしかして運命を乗り換えるために、僕たちは世界の端っこにいたのかなあ」
「はぁ?なにいってんだよ晶馬」

てくてくと、前の世界にいた頃より格段に短くなった歩幅で冠葉と晶馬は歩く。その後ろを4匹のペンギンたちは小走りについていく。
電灯の鈍い明かりがぼつぼつと不規則に途切れている。辺りは鈍い光以外無く、もう子どもが歩くにはおかしなくらい暗いのに、すれ違う大人はふたりの姿が目にはうつらないかのように、誰も気に留めない。ふたりの話す声も聞こえないように、振り向かない。
誰の目にもうつらない。
誰の耳にも聞こえない。
そう望んだのだから、それでいいのだけれど。

「端っこから外側にきちゃったなあ」

ここはすこしだけしずかすぎる。



(2012.02.05)


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