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「冠ちゃん、晶ちゃん。夏っていったら?」

窓際にとりつけた風鈴が風に揺れ、蝉が大合唱を奏でている。去年よりも確実に暑さを増した8月だ。
クーラーは陽毬の身体によくないからと、扇風機派の高倉家なので、必死に左右へ首を振る扇風機からくる風だけが涼しさの頼りである。
陽毬は長い髪をひとつに纏め、ピンクのキャミソールに白のふわふわとしたショートパンツを履いていた。上半身はぐったりとちゃぶ台にのびている。いくら扇風機といっても、暑いものは暑い。

「夏っていったら…スイカかなあ…兄貴は?」

晶馬は、コバルトブルーのタンクトップにカーキ色のハーフパンツで、陽毬同様ちゃぶ台にのびている。
はじめはひんやりしていたちゃぶ台も、晶馬と陽毬の体温で冷気が消えかけている。

「夏はアイスだろ」

顔が緩みきっている弟妹と違い、冠葉は暑さにそこまで弱くなさそうだった。黒のスキニーデニムに紫のTシャツを着て、雑誌を読んでいる姿は弟妹と同じ空間にいることを感じさせないほど余裕がある。

「わあ、アイスいいなあ。アイス食べたくなってきちゃった」
「陽毬はなんのアイスが食べたい?」
「んー、陽毬はイチゴの味のやつ!あっでもチョコチップも悩むなあ。晶ちゃんはなにが食べたい?」
「僕は抹茶かな」

晶馬が立ち上がって冷蔵庫を見にいくと、陽毬はぱあっと顔を輝かせる。冷蔵庫の1番下の棚は冷凍庫になっているのだ。
陽毬の期待いっぱいの笑顔を背おって冷凍庫を覗くが、そこには冷凍された米や食材しか入っていなかった。
アイスが無いことを悟った陽毬はむう、と頬を膨らませた。期待していただけアイスがなかったことがやるせない。
しかし暑い中アイスの話をしていたので食べたくなったのは晶馬も同じことで。
時間もちょうど夕暮れ時、陽が陰ってきている。
晶馬は陽毬と冠葉に言った。

「アイス買いにいかない?」





「イチゴもチョコチップも買ってくれるなんて、晶ちゃん太っ腹!」

陽毬を真ん中に右に冠葉、左に晶馬。双子の空いている手にはアイスが入った袋と特売品が入った袋が握られている。
陽毬の足取りは軽く、晶馬と冠葉は半ば陽毬に引っ張られるようにして歩いているようなものだった。
陽毬の足取りが軽い原因は、彼女の悩んでいた味のアイスを両方とも晶馬がカゴにいれたせいだ。
普段はアイスは一個まで、と口をすっぱくする晶馬がめずらしく両方とも買ってくれたので、陽毬の機嫌は最高潮に良い。
晶馬は抹茶味、冠葉はチョコ味のアイスを選んでいる。

「お風呂入ったらみんなで食べようね」

それまでは食べちゃ駄目だよ、約束!と陽毬は跳ねる。晶馬はバランスを崩しながら陽毬に危ないよと注意し、冠葉は2人の様子を見守るように笑う。
高倉家はもうすぐだ。





(11/09/11)


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