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私には兄と姉がいる。
兄と姉は双子で、普通の歳の離れた兄妹とはどこか違い、ひとつの個体をふたつにわけたようだった。そのため私はいつも漠然とした疎外感を感じる。
彼らは私を溺愛しているようだけど、それは身体の弱い私が生物的弱者と見られているようにも感じてしまう。揺るがない愛情を一身にうけてきた私は捻くれている。

私の病室は白い。床も壁もベッドも枕もシーツもカーテンも白い。私という個体を白く塗りつぶしたら、同化してしまうだろう。同化させようとしているのかもしれない。白く塗りつぶして、私を消そうと。だから私は雑然と物が溢れているほうが好きだ。無造作にたくさんの物が散乱した部屋はきっと私を消さない。存在させてくれる。
病室に閉じ込められている私をおいて、兄と姉はあの家に二人で住んでいる。私はひとり、病室に。疎外感。

兄と姉は妹の私から見ても、それはもう、恋人のように仲睦まじい。双子だから互いの考えていることやその時欲しているものを即座に理解できるのだろう。
兄の私へむける視線と姉にむけるものの違いに気づいたのはいつのことだったか。その時はまだ自分が世界で一番愛されていると思っていた私は、はじめて疎外感と兄の中の一番になれない絶望感と現実を知った。諦めることも覚えた。
彼らは私とは違う。
私はひとつをひとり受け継いだ。
彼らはひとつをふたつにわけてそれぞれに受け継がれた。
ふたりでいなければ、ひとつになれない。
はじめからひとつの私とは違うのは、当然の事なのだろう。

ただ問題なのは、兄と姉の精神年齢ならびに経験値の差だった。
兄は年齢を駆け足して、一通りのことを経験しているようだ。他にも家族三人の大黒柱のような意識からくる責任感も多少あるようで、年齢の割りに大人びている。秘密主義なところも手伝っているのかもしれない。
それにくらべて姉は品行方正、清廉潔白だ。家事に追われているからかもしれないが、彼氏のかの字も聞かない。経験の無さからアプローチに疎いだけなのかもしれない。それにもし彼氏ができたとしても兄が全力で潰しにかかるはずだ。あの人は守られている。繭の中でねむるように気づかない。

姉は自分の気持ちに気づくのだろうか。
兄の気持ちに気づくことはできるのだろうか。
そうしたら、私の居場所は残っているのだろうか。
どうしても私は気づいてほしくないと願ってしまう。兄と姉のお互いの気持ちが向きあってしまったなら、私はどこに帰ればいい?
あの家は彼らの城となり、私の居場所を侵食していく。

どうかきづかないで。
私をおいていかないで。

できることなら気づきたくなかった。
気づかなければ、私は今も無邪気に笑って彼らの名前を呼べただろう。兄の中で一番になれない私は、姉に嫉妬をせずにいられたはずだ。姉の傍にいれる兄を羨望せずにいれたはずだ。

なにも知らずに笑いあっていた私たちはもういない。




(11/08/06)


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