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櫻花御苑女子高等学校の制服は黄緑色と白を基調としたセーラー服だ。黒のタートルネックのインナーと赤いスカーフが特徴で、左腕にある桜の花びら模様に人気がある。
先日、荻野目苹果を調べる時にペンギン1号と2号が活躍した時のこと。女装でもするか。櫻花御苑女子高等学校の向かいのビル屋上にて、晶馬が呟いた一言を冠葉は聞き逃していなかった。

「てことで、これ」
「…はっ?!」

冠葉の手にあるのは櫻花御苑女子高等学校のセーラー服だった。それもビニール袋に包装されていて未開封のままの。晶馬はいったい兄がどこからこの制服を入手してきたのかを聞き出したい気持ちに駆られる。しかし冠葉が制服を突き出してくるので、慌てて受けとった。

「これなんだよ兄貴」
「女装したいって言ってただろ?」
「したい、とは言ってない!」

櫻花御苑でのことを思い出し、晶馬は肩をあげて冠葉につっかかる。双子なのに自分とは違い、つりぎみの目をした兄は顔色ひとつ変えない。いったい何を考えているのだ、この兄は。
昔から口で勝てた試しはなかった。なので今回も何を言っても言いくるめられてしまうのだろうな、と過去の経験から学んでいる晶馬は諦め半分でセーラー服を広げてみた。皺ひとつもない、Lサイズのセーラー服。自分じゃなくて陽鞠が着たらきっと似合うのに、と晶馬の脳内でセーラー服に身をつつんだ陽毬が笑った。病弱で学校に通えなかった妹の制服姿を見たことはなかったが、絶対に似合うだろう。

「いつまで持ってんだ?」

脳内陽毬に浸っていた晶馬に痺れをきらした冠葉が頭を小突く。「似合うかな?お兄ちゃん」と照れながらスカートの端を持ち、くるっと一回転する陽毬が消えた。
今、陽毬は散歩と称して3号と外出中だ。最初はついていく!と言い張る双子に、陽毬は「1人で散歩したいの。私には3ちゃんがいるから大丈夫」とさっさと出て行ってしまった。

「俺結構がんばって手にいれたんだけどな」

肯定しか認めないからな。とでもいうような強い視線を放つ冠葉の瞳に、晶馬は頷くしか道はなかった。押しに弱いことをつくづく実感する。





すうすうする。
晶馬は何度目か分からない溜息を吐いた。
さすがに冠葉の前で着替えるのは躊躇われ、居間にいる冠葉とは別に、晶馬は寝室にいる。むずむずとした不安感が晶馬を襲っていた。普段はズボンに隠されている足が短いプリーツスカートによって晒されている。女子高生のスカートはこんなに短くていいのか、と思わせるほど短かった。ご丁寧にも黒のソックスまで用意されていて、冠葉の用意周到さに、晶馬は驚きを隠せない。日焼けをしていない晶馬の白い足に黒のソックスはよく映えていた。普通に女子制服を着ることのできた自分が少し悲しいが、冠葉に比べたら女顔だということは自覚している。この格好を冠葉に見せなければならないことを考えると気が重い。サイズがきつくて着れなかったと言い訳して免れたいが、きっと冠葉のことだから、自分の眼で見ない限り信じないだろう。
しかしまだ人生初の女装姿を肉親に見せる覚悟ができているはずもなく。晶馬は気持ちを落ちつかせるように、うろうろと室内を歩き回り、ついに座りこんだ。床にのの字を書いてみても、落ちつかない。

「ああ、もう、やだよ…」
「なんで?」
「恥ずかしすぎ…って兄貴なんで?!」
「なんでって、晶馬が遅いからだろ」

座りこんだまま顔をあげると、そこにいたのは居間にいるはずの冠葉だった。冠葉は音をたてずに寝室の襖を閉じる。晶馬の逃げ道が閉ざされた瞬間だった。

「着方がわからないのかと思ったけど、恥ずかしいのか?」

聞かなくても赤面した顔をした晶馬の答えはわかりきっている。座りこんでいる弟に目線を合わせるように、冠葉はしゃがみこんだ。顔が近くなり晶馬は思わず後ろにさがるが、背中にはもう壁しかない。耐えきれずに膝を抱えて顔を埋めると、耳元で冠葉が囁いた。

「なあ、よく見せろよ。せっかく着たんだから」

同時に冠葉は耳を舐め、柔く生暖かい舌の感触に晶馬は耳まで赤くなる。冠葉はずるい。そう言ってしまえば、晶馬が拒否できないことを知っている。逃げ道を一本一本、言葉で消していくのだ。針のように。自分の言う通りに晶馬が行動するように。ゆっくりと顔をあげた晶馬に、冠葉は満足気に頬をあげた。

「晶馬はお利口さんだな」

眼にかかっている前髪をはらってやると、くりくりと丸いビー玉のような晶馬の瞳に涙が溜まっている。大方、羞恥心からだろう。
きゅっと眼を瞑る弟に、冠葉は触れるだけのキスをした。安心させるように何度もそれを繰り返す。だが女性の経験が豊富な冠葉とは違い、慣れていない晶馬は無知のため、なかなか自分から口を開かない。冠葉が舌でつついてみても首を小さく横に震わせるだけで、鉄壁の壁は不動を決め込んでいる。

「晶馬、くち。口あけろよ」
「そんなの恥ずかし」

い、と最後まで晶馬が言う前に、冠葉は弟のくちびるを自分のもので塞いだ。閉ざされないように素早く舌を入れて、晶馬の舌を探す。狭い口内で逃げきれなかったそれを捕獲し、絡ませた。初めは陸にあげられた魚のように抵抗する晶馬だったが、次第に力を無くしていき、冠葉にされるがままとなっていく。そうなればもう冠葉の独壇場だ。晶馬はされるがままに冠葉のキスを受けとめるのに必死だった。自分の口から微かに漏れる荒い息と、わざと音をたてる冠葉のリップノイズだけが頭の中を反響している。
口の端から飲みこみきれず混ざった二人の唾液が垂れ始めると、冠葉は絡ませていた舌を離し、自分の頬を右手で乱暴に拭った。軽い酸欠のためぼんやりとした晶馬の口元は白熱電球の光に当たると、やけに艶があり、冠葉は拭うかわりに舐めた。次第に熱は口元から下がり、体温よりも熱を持った冠葉の舌が晶馬の首元を丁寧に這う。

「邪魔だな」

黒のタートルネックが冠葉の行き手を阻んでいた。脱がしてしまえばいい話だが、今回は晶馬のセーラー服姿を見るのが目的のために、脱がしてしまうのは忍びない。それを言うならスカートもだ。晶馬は体育座りを崩したような体勢をしているので、ちょうど見えそうで見えないチラリズムが冠葉を誘う。スカートからは下手な女子より綺麗な曲線が伸びていた。

「兄貴…?」
「制服よく似合ってる。もっと見せろよ」

冠葉は脇に手をいれて、こどもを抱きあげるように晶馬を立たせた。すると座っていた時にはわからなかったけれど、晶馬のスカートは妙に膨らみがあり、反応していることがわかった。もじもじと足を内股ぎみに寄せる晶馬がいじらしい。女顔なのでショートカットの女の子と言えば、 きっと間違えられるだろう。

「あ、あんまり見ないでよ、兄貴」
「晶馬、こことここ、持てるだろ?」

そう言って冠葉が晶馬に持たせたのは制服のスカートの裾だった。晶馬が持つことで、彼の下着が丸見えとなる。制服を脱がさずに行為を進めたい冠葉としては、晶馬がスカートを自分で持っていることが一番なのだ。意味を理解した晶馬は「できないよ」と慌ててスカートを降ろして押さえた。

「できる。頼むから、持って」

啄むように何度もキスをしてやりながら、スカートを押さえるショートの手を持ってゆっくりと持ち上げさせる。
最初は力が強いものの、次第に力が抜けていき、簡単に晶馬の手を上げさせることができた。キスに弱い晶馬は、すぐに抵抗できなくなる。腰の位置まで晶馬の手を持っていかせると、冠葉は自分の手を離し、晶馬の膨らみのある下着に右手をいれた。重力に逆らって反りたっている晶馬のそれを優しく握ってやると、びくんと反応が返ってくる。直接触れているため、脈打つ音が伝わった。上下に揺すりながら先を親指で押せば、先走った液体がにじみでる。
このまま一度達したほうが良いと思い、冠葉は揺する速度を早めた。晶馬は女のような声が自分から漏れないようにくちびるを噛んだ。恥ずかしさはまだ消えておらず、頭の片隅に残っている。しかしそのせいで晶馬の桃色のくちびるが白くなってしまっていた。
冠葉が触れるたびに背筋を震わす快楽の波が寄せては消えていく。自分とは違った温もりにすがりたくなる。巧みな手さばきによってすぐに達した晶馬はだらしなく口を開けて、全身で呼吸をした。弾けたように頭が真っ白となり、喪失感に襲われる。体に力が入らない。腰が砕け、上半身を支えきれなくなり、また床に座り込んでしまった。そのまま横にしてやり、冠葉は晶馬に馬乗りになった。
晶馬からでた白い粘着質を指に慣らし、熱を帯びた奥へと擦り付ける。すると違和感を感じた晶馬が声をあげた。

「なんか変なの…」
「力抜け。慣らしておかないと後でキツいのお前だぞ」

強張っている密室をゆっくりと傷つけないように解していく。だがやはり晶馬には異質物にはかわりなく、冠葉が指一本いれただけでもかなりの圧迫感を感じた。ひっ、と小さな悲鳴をあげた。

「苦しいのか?」
「だい、じょぶ。だいじょうぶだから」

すでに冠葉は雄々しく反り返っていて、それはズボンの上からでもわかるくらいだった。自分は気持ち良くしてもらったが、兄は額に汗をかき、苦しそうに顔を歪めている。申し訳なさに苛まれた晶馬はそっと手を伸ばし、冠葉のズボンのジッパーをさげた。雄々しい躰が姿を表す。

「俺が……脱がすよ」

どこか遠慮しているような拙い手つきで、晶馬は時間をかけて冠葉の躰に触れた。赤黒く自身を強調させている凶器のようで、背筋が震えてしまった。
その間にも冠葉は晶馬がなるべく苦しくならないように奥地を慣らさせていく。晶馬の中は狭く、熱かった。指を入れても、押し戻そうとする力が強い。侵入と後退を繰り返しながらも中を指の腹で擦ると、晶馬のくちびるから吐息に混じって嬌声があがる。
互いのものに触れ合う。双子の、それも同性なのに、と背徳感に苛まれた。

「入れてもいいよな」
「ま、待った。まだ心の準備ができてないっ」
「無理。もう俺限界」

晶馬の腰を持ち上げて、足を自分の肩にかければ、晶馬の秘部はあらわになる。電球がこうこうとついているため丸見えだ。やだやだと首を横にふる晶馬の小さな抵抗も、冠葉を煽るだけの材料でしかなかった。

「っ、ん……やっ」

次の瞬間、壁部を支える冠葉の大きな手のひらと息を吸う音と共に、晶馬の小さな小さな密室に鋭く尖った切っ先があてがわれ、侵入を始めた。その圧迫感は冠葉の指の比ではなくて、晶馬は足の指先まで力んでしまう。息吸って吐いて、と冠葉が言っても迫りくる恐怖になかなかできない。指の先まで力むと、苦しいのは晶馬自身なのに、痛みに耐えようと瞼を強く閉じるだけなので、またキスをしてやる。晶馬の意識が全て痛みに向いているため、少しでも和らげてやろうと口内を貪るように犯す。

「あ、にっ…き」
「兄貴じゃなくて名前で呼べよ」

侵入をとめた兄を見れば、彼は真剣な顔つきで、絞り出したような声は切なさを帯びていた。兄は自分の名前を呼ぶが、自分は兄の名前を呼ぶことは滅多にない。最後に呼んだのはいつのことか。晶馬は緊張気味に冠葉の名前を呼んだ。

「かんば…冠葉、いたいっ」
「ごめんな。すぐよくなるから」

冠葉はまた侵入を始める。掴むものが欲しい晶馬の腕は冠葉の首に絡みつく。縋るような、助けを求めるようだった。心中で謝りながら、冠葉は動きを止めずに進む。爪をたてても歯をたてても構わないのに、晶馬は自分自身を殺して耐える。痛みに耐え忍ぶ弟の姿は兄を余計に興奮させる。
ついに根元まで入りきった頃には、晶馬の瞳から溜まっていた涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。ともに荒い息の中、冠葉は拭ってやる。

「全部入ったのわかるか?」

晶馬はこくりと首を縦に振った。連結部を見なくてもわかる。自身の中にある冠葉の躰から脈打つ鼓動が肉の壁越しに伝わってきて、本当に繋がっていることを意識する。
冠葉の腕の中にいる晶馬は、髪もセーラー服も乱れていて泣いている。口元はあいていて、唾液でてかっているくちびるは男よりも女を彷彿させた。
冠葉がそっと奥をつついてみれば、晶馬の白い喉仏が動いた。

「あ、やっ、うごかないで、待って兄貴」
「兄貴じゃないだろ?晶馬の中すごく熱い」

ぎゅうぎゅうと締めつけて離さない晶馬の一点を攻める。晶馬は押し寄せてくるなれない快楽にどうしたらいいかわからなくなり、されるがままだ。大荒れの海に放りだされたようで、冠葉に絡みつく腕に力がこもった。

「ひっ…んん、やだ、そこっやっ!」
「やだ?でもこっちの晶馬はよさそうだけど」

与えられる刺激に反応した晶馬を手のひらでそっと包み、緩急つけて一緒に動かした。そうすれば晶馬の嬌声がいっそう高くなる。何か余計なことを考える余裕すらなく、快楽に素直に反応している。

「かんっ、ば、も、あっむりっ……くっ」

緩急をつけた動きの後、一度後退し、勢いをつけて最奥の壁に打ちつけた。背中が弓なりに反るのと同時に、晶馬の躰から白濁した精液が冠葉の手のひらの中で弾けた。実が弾け飛ぶような勢いで、頭が真っ白になる。自身の中にいる冠葉の躰もぶるりと震えていた。

「あいしてるよ」

遠く離れたところから、掠れた声がそう聞こえたような気がした。





「うま…晶馬、起きろ。そろそろ陽毬が帰ってくる」

ぼんやりと覚醒しきっていない頭で体をおこす。どうやら居間の赤いソファーに横になっていたようだ。冠葉は丸いちゃぶ台に肘をついている。

「え?今何時…」

時計を見れば、陽毬が外出してから1時間以上経過している。夕飯の支度をしていないことを思いだし、晶馬は飛び起きた。そこでセーラー服ではなく、オレンジ色のTシャツを着ていることに気づく。下はズボンを履いている。まさか、夢だったのか。

「お前気絶するから、着替えさせといたんだよ」

気絶。あの後、晶馬は達したあまりの快楽に負け、意識を手放してしまったのだった。事後処理は冠葉がすべてしたようだ。ずきりとした腰の痛みに先ほどまでの行為を思いだし、顔を赤くさせる。

「今後は女物の下着も用意しとくからな」
「ばっ…馬鹿兄貴!」

腰を摩りながら台所へと向い、エプロンをつける。いそいで夕飯の支度をしなければ、と張り切る晶馬に、台所へ顔だけ出した冠葉は言う。

「かわいかったよ」

その一言はあまいあまい毒針のよう。晶馬の心にちくりと刺さる。彼が遠くへ逃げないように刺しておく,甘い毒針。





(11/07/30)



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