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 ふらり。暗い夜の世界を見張るように、眩しすぎる光を絶やさない電灯を潜りぬけながら、仁王は歩く。明るいところがあまり好きではないので、無意識に光の下を避けてしまっていた。彼が歩いている道は、今は人っ子一人も通らずに閑散としているが、実際は大勢の人で賑わう公道だった。人の姿が見当たらない理由は、出歩いている時間にある。ポケットに乱暴につっこんでいた携帯が震え、面倒臭さそうに仁王は取り出し、携帯を開いた。
『Eメール 1件』
 暗闇に目が慣れていた中で開いた携帯の液晶は、予想以上に眩しさを放っており、仁王は耐え切れずに目を細める。ボタンを押してメールを確認すると、それはクラスメイトの丸井ブン太からのものであり、見なかったことにしようと仁王は電源ボタンを押した。べつに返信を急ぐものでもなかったので、今しなくてもいいと思ったのだ。その頃には液晶の眩しさにも目は慣れていて、仁王は右上の時計を確認し、携帯を閉じてポケットへと戻した。明るかったそこは、また静寂な暗闇へと変わる。
 ―――2:13。
 時計は二時を越えていて、夜から深夜の域へ入っていた。家に帰ろうかとも思ったが、不意にさざなみが風に乗って耳に届いたので、仁王の足は家ではなく、公道の先にある海へと向かい出す。
 この深夜の散歩は、仁王にとって、日常茶飯事ではないものの、よくあることだった。闇に紛れて誰もいない道を歩くのは、世界に一人だけしか存在していないような、不思議な感覚を教えてくれて気持ちが良い。ある時、この楽しみを知ってしまった仁王は、寝付きの悪い夜や妙に鬱憤の溜まった夜、調子の悪い夜など、事あるごとに深夜の散歩に出掛けていた。
 海に近づくに連れて、波の音も耳へさざめいた。どこか懐かしさと穏やかさを併せ持つ波音は、いつまでも聞いていたくなる。ちょうど今日は満月の夜で、空のように黒い海が月光を反射して、自然な照明となっていた。地面はコンクリートから浜辺の砂へ変わり、細かい砂を踏みながら歩く。誰もいない広い海がそこにひろがっている、はずだった。

「ん?」

 見渡す限り、海と砂浜がひろがっているはずなのに、人影がある。仁王が瞠目してみると、それは自分と同じくらいの歳の少女だった。その少女は闇夜に溶け込みそうな長い黒髪が風に吹かれるのも気にせず、渚に佇立し、目線は海へとむけていた。

「お前さん、こんな時間に何しとるんじゃ」

 突然かかった声に驚きもせず、少女は海から仁王へと視線を動かした。くちびるを緩やかにひらく。

「親と喧嘩したの」
「こんな時間にか」
「ううん。本当はもっと前。でもここにきたら、こんなに海が綺麗で動けなくなっちゃった」

 あなたは?と、視線をまた海へと戻した少女は、仁王のことを警戒しているようではなかった。声からも動作からもそんな素振りが見えてこない。こんな時間に海辺をふらついている男に警戒心を抱かず、話をするなんておもしろい奴もいるもんだと、仁王は内心でこの状況を楽しんでいた。

「散歩」
「そう」

 単語だけで答えれば、相応に短い返事を返された。それ以降、二人の間には波音以外、何も音が発せられることはなかった。居心地の悪さなどは感じられない。けれど仁王は薄い幕のような沈黙を破った。

「のう、名前。お前さんの名前はなんて言うんじゃ」
「ユキ。天宮、ユキ。ねえ、でも人の名前を聞くなら、自分から言うべきだと思う」
「すまんのう。仁王雅治じゃ」
「雅治ね。覚える」

 未だ佇立するユキは、やはり海を見ている。月光に照らされながらまっすぐに海を見るユキの横顔を、仁王はすることもなく眺めていた。やっぱりおもしろい奴じゃ。ユキは仁王の会ってきた女性の中でも極めて顕著な人種だった。波音にまざって吐息の音がする。

「あっちで話さない?立ち続けるの、疲れちゃった」
 海を背にしてユキは指差した。指差された先はコンクリートの階段だった。




「私ね、意地っ張りなの」

 固いコンクリートに二人は微妙な距離をあけて座った。膝をかかえて座るユキとは逆に、仁王は膝を伸ばして座る。体育座りは窮屈なのだ。夜のせいか潮風のせいか、コンクリートは冷たく、触れているところから熱を奪っていった。
 ユキがこの場にいる原因でもある、父親との喧嘩は、意見の食い違いが発展してしまったための出来事だった。そして互いに主張を譲らず、両者共一歩も引かずの状態に、先に痺れを切らしたユキは怒りに任せて家を飛び出して、ここにいる。

「海やのうて、友達の家に行けばええんじゃないのか?」

 それを聞いた仁王はすかさずそう言った。人のことを言えないが、こんな深夜に一人で出歩くのは危険だ。まだ仁王は男だからいいものの、ユキは女だ。それも小柄の。何か間違いがあって取り返しのつかないことがおきないとは言い切れない。

「夜分にいきなりお邪魔するのは失礼だもの。それに私、ここらへんに友達いないし」
「学校、どこ通っとるんじゃ?」
「氷帝よ。知っているかしら」

 知ってるもなにも、大会では顔を合わし、部活関係では練習試合をするほどの仲だ。知らないわけがない。けれどここは神奈川で、氷帝学園は都内にあるため、通学時間は結構かかるだろう。なぜ近場の立海ではなく、氷帝に通うのだろう。仁王は疑問に思った。

「遠ない?ここからだと立海のほうが近いきに」
「そうね。父の転勤が一年遅かったら、立海の受験も考えていたわ」
「お前さん、学年は?」
「高一。せっかく高校に入学したって時にこっちに引っ越してきたの。タイミング悪いわよね」
「俺のほうが先輩じゃのう。高二じゃき」
「でもきっと、どうせ数ヶ月の差よ」
「まあそうじゃな。転入すればええのに」
「転入も考えたけど、氷帝は三年通ってたからそれなりに愛着はあるし、微妙な時期に転入するのもどうかと思ったの」

 意外にもユキは饒舌で、さっきから私質問責めね、と困ったように笑う。その様は、歳下のようにまったく見えなかった。仁王はまた携帯を取り出す。今度は眩しさを回避するように手で覆ってから、また右上の時計を覗いた。
 ――3:27。
 前に確認してから一時間は経っていて、仁王は立ち上がる。ずっと座っていたせいで尻は冷たく固く、急に流れこんできた血液に足は驚いていた。

「もう遅すぎる。帰りんしゃい」
「………帰りたくない。って言ったら?」
「引っ張ってでも帰らせるぜよ。夜の一人歩きは危険だしのう」
「わかったわ」

 降参、と両手を軽くあげながらユキも立ち上がり、尻を掃う。そのまま階段を上り、まだ人の気配のない公道を、今度は二人で並んで歩いた。行きと違って隣に誰かがいる状態は、思っていたよりも普通だった。相手がユキだからかもしれないが、夜道を歩く気持ち良さが損なわれることはなかった。

「じゃあ私、ここ曲がるから」
「家の前まで送るき」
「大丈夫。すぐそこだから」

 ばいばい。またいつか。小走りに暗闇へ消えていったユキはすぐに見えなくなった。
 逃げ足の早い奴じゃのう、と仁王は呟く。返事はなかった。





 朝早くからユキは電車に揺られていた。規則正しくがたんごとんと揺れながら、たまに不規則な振動に揺さ振られる。通勤ラッシュと重なる朝の時間帯の車内は、まるで戦場だった。席に座るのも、吊り革も奪い合いで、人で一杯の車両に体を捩って乗りこむのも、一緒の戦いであった。東京への上り線の朝は毎日絶やさずこの戦争を繰り返す。
 そんな中、運良く吊り革を手にしたユキは流れに身を任せていた。吊り革がなくても、この人でひしめく電車内では互いに支えあって立っていられるのだが、やはり無きに越したことはない。東京にいたころはまだ軽かった通勤ラッシュも、神奈川に引っ越し、通学に一時間以上もかかれば苦痛としかならない。それももう慣れつつあるが。

 ―――次は氷帝学園前。次は氷帝学園前。車内、非常に混雑しております。扉が開きましたら、………

 駅名のあとに下車の注意をアナウンスした車掌の声で、ユキは浅い眠りから現実に引き戻される。あんな窮屈で身動きできない場所でも人は寝られるらしい。今日の睡眠時間が短すぎたせいもあるかもしれないが、ユキは眠りの世界へ回れ右しそうな自分を必死に起こした。扉が開いてから、何度も謝罪をしつつホームへと降りる。周りには同じ制服を着た生徒が何人もいて、その中から見慣れた顔がこちらへと近づいてくるのに気づいた。中等部にいた頃から仲の良いクラスメイトは、爽やかに手を振る。

「おはよう」
「おはよう、ユキ。今日もラッシュすごかったね」
「長太郎は背が高いからまだいいわ。私なんて背が低いからすぐ埋もれちゃう」

 180センチ半ばも身長のある鳳とは違って、160にも満たないユキは恨めしそうに鳳を睨む。鳳はその目線を慣れたようにいなした。

「こればっかりは仕方ないよ」

 改札を通り、通学路を歩く。
 ――今日の宿題なんだっけ。
 ――古典の訳だよ。
 ――あたらないといいな。そうだ、今日は朝練ないの?
 ――今日は休みなんだ。
 他愛ない会話を交わしながら歩いていると、ふぁ、とユキの口から小さなあくびが漏れた。

「眠いの?」
「ちょっと。寝るの遅くて」
「珍しいね。何時?」
「たしか四時くらい。親と喧嘩して家飛び出したの。冒険みたいで楽しかった」
「四時?!家を飛び出したの?!」

 それはさすがに遅すぎる!しかもそんな夜更けに外を出歩くなんて!と鳳は親のように声を荒げた。その声は朝方家へ帰ってきた自分をまた叱った親のものに似て、心配の色で占められていたので、ユキは口を大人しくつぐんだ。

 あの後―――ユキが仁王の隣から走り去った後、逃げることなく家へ帰った。元々頭を冷やすために海に居たのだ。ユキの暴れ馬のようだった心は、海を眺め、あの海で出会った仁王という少年と話すことで、元の平穏を取り戻した。しかしやはりユキの両親は、突発的に飛び出し、なかなか帰ってこなかった一人娘を、心底心配していたのだろう。ユキが帰宅すると、母親に泣きながら頬を叩かれた。痛みに顔を押さえたら、その直後に抱きしめられてしまい、計り知れない心配をかけていたことに気づいた。
 ――お母さん、ごめんなさい。
 小さく呟くと、「あなたは女の子なのよ。もし何かあったら、どうするの。心配したの、すごく心配したの」と今度は母に泣かれてしまった。身を母の両腕に拘束されているので、動けずにどうしたものかとユキが思考していると、気まずそうに父親が入ってきた。
 ――その、……悪かった。
 消え入りそうな声の謝罪にユキは微笑んだ。
 ――私もごめんね、お父さん。お母さんを剥がしてくれると、嬉しいな。
 そうして就寝についたユキだが、家が学校から遠いため朝も早い彼女は、結局、仮眠程度の睡眠しかとれなかった。自業自得だから仕方ない。


「俺の話、聞いてた?」

 こつん、と小さな衝撃が頭に入った。どうやらまだ鳳は説教のような小声を続けていたらしい。この衝撃は軽く頭を叩かれたようだ。勿論聞いていなかったユキは、むけられるにこにこと逆らえない裏のある笑顔に、苦笑いを返すくらいしかできなかった。

「やっぱり聞いてなかったんだね」
「ごめんね、本当に眠くて」
「そんな時間に家出るなら、俺の家にきていいんだよ。母さんも父さんもユキのこと大好きだし、いつでも大歓迎だから」
「うん。ありがとう」

 でもたぶんその時間は終電も終わって、電車がないと思うんだ。とは口にせず、ユキは鳳にへらりと笑った。
 鳳は優しい。本当に心配してくれているのも、本心から頼れといっているのも、彼の全身から伝わってくる。けれどユキは鳳に海に行ったことも、仁王のことは話さなかった。
 一日を始めるチャイムが鳴った。担任が入ってくる。ユキはさざ波の音を思い出しながら、一限目の準備をし始めた。




「おはよーさん」
「はよーってもう昼だぜ?」

 仁王が登校した頃には、空の一番高いところに太陽は位置していた。仁王はけだるげに自分の席へつくと、前の席の丸井が振り向いた。今日も重役出勤かよ。あ、お前昨日俺が送ったメールシカトしただろ?など、こちらが口を開かなくても勝手にいろいろと話し出す丸井に、仁王は面倒くさそうに適当に相槌を打つ。

「で、なんでまたこんな遅かったんだよ。朝練ん時、真田が怒ってたぞ。幸村くんもすげー怖かったし」

 仁王はその現場がありありと想像できた。コート上には無駄に大声をあげる真田と、少し離れたところに異様に笑っている幸村がいるのだろう。この図は中学の頃から変わらない。

「寝とった」
「早く寝ろよなー!」

 人のことを言えないくせに、丸井はいばったように言った。仁王とは違って自分はきちんと朝練に出たことを誇らしげに武器とする。

「ブンちゃんだってあんな夜中にメール送ってきたダニ」
「でも俺ちゃんと朝練出たぜィ」

 グリーンアップルのガムを丸井は慣れたように器用に膨らませた。グリーンアップルという味のように緑色の半透明なそれは目の前でやられると、割りたい衝動に駆られる。その丸い膨らみは昨晩の満月にも見えて、仁王の脳裏に渚で佇立しているユキの姿が浮かんだ。

「海にいっとった」
「はあ?あーお前ん家、結構近いもんな」
「散歩しとったきに。氷帝のおもしろう女に会うた」
「は?!女?!しかも氷帝かよ」

 月が割れた。丸井は今度は目を月のように丸くする。すぐさま変わる丸井の顔に、表情がころころと変わっておもしろいのう、と仁王は口端をあげた。

「ブンちゃん叫びすぎじゃ。うっとい」
「そのブンちゃんっていうのやめろよな!」

 割れたガムをまた噛み直し始めた丸井は、また新しいガムを口にいれた。彼が補充を欠かさないこのガムは、膨らましやすいらしい。

「でもよ、珍しいよな。仁王が自分から女のこと話すなんて。俺初めて聞いたぜ」

 よっほど気に入ってんだな!と丸井は笑ったと同時に、授業を始めるチャイムが鳴ったので、彼は前を向いた。丸井の赤い髪を眺めながら、仁王は自分の中で丸井の言葉を復唱する。
 ――珍しいよな。仁王が自分から女のこと話すなんて。俺初めて聞いたぜ。よっぽど気に入っんだな。
 おもしろい女だとは思う。落ち着きもあって独特の話し方は飽きない。同じ空間にいても苦にならないのだ。たしかに自分から女の話題がでるのは初めてだとは思う。確かに気に入ってもいる。
 ようわからん。仁王は誰にも聞こえないように呟いて、机に俯せに倒れた。

「プリッ」






 あの日から数日が経った。仁王は今日も深夜の散歩の真っ最中で、時刻は午前2時。この間と同じ時間だった。虫の鳴き声をバックミュージックに、ふらりふらりと人工的な光を避けて歩く。
 今日の散歩の理由は、ここ数日の幸村の練習メニューのきつさだ。どうやら遅刻をして昼に学校へ行った日の、朝練をサボったことを根に持っているのか、レギュラーの倍、いやそれ以上を幸村は仁王に与えた。仁王はもちろん反論の意を唱えることはできず、黙々とメニューをこなす。反論なんてしたら、さらにメニューが増えることなんて目に見えていた。それに真田の鉄拳がこなかっただけいいほうだ。数日が経ち、そろそろこの地獄のメニューも終わるだろうと仁王は予想していた。足は海へとむかう。
 今日もおったりするかのう。仁王は少し期待していた。酷く幻想的だった、渚に佇立するユキの横顔をもう一度見たいと望んでいた。
 喧騒のない夜の世界は、海に近づくにつれて音を増していく。波の音は仁王の期待を後押ししていた。足の速さが僅かに早くなり、気づいたら走り出していた。止まらない足は公道を突っ切る。すぐに視界が開け、仁王の目の前には大海原が広がった。
 ――居た。
 やはり渚に佇立し、背を真っ直ぐ伸ばしながら海を眺める姿がそこにはあった。あの闇に融けて同化してしまいそうな黒髪は、間違いなくユキのものである。仁王は息を整えて、余裕を持ったように彼女へ近づいた。小さなプライドだった。

「こんな時間に何しとるんじゃ」
「あら・・・・・・雅治」
「夜の一人歩きは危険すぎるぜよ」
「今、雅治がきたから、一人じゃなくなったわ」

 ほらね、と微笑むユキに、仕方ないのうと仁王は苦笑する。この女は口が巧い。

「また、喧嘩か?」
「残念。今日は散歩よ。海が見たかったの。あと・・・・・・・・・やっぱり秘密にしておくわ」
「秘密か」
「ええ。秘密よ」

 挨拶もそこそこに、砂浜でユキはおもむろに靴を脱ぎはじめた。靴下も脱いで裸足になると、海へと足を進め始める。

「ちょ、なにして」

 仁王の声も聞かずに、#name1"は海水へ足をつけた。つめたい。呟く声はがっかりしたものではなく、やっぱり、というようなもので本人は至って満足気であった。沖に出るようなことはしてくれるな、と仁王は心中願いながらその様子を眺める。自由気ままな猫のような性格のユキを止めるのは難しいと思って、諦めたのだった。そんな仁王を他所に、ユキはそのまま浜に沿って歩いた。ばしゃ、ぴちゃ、と海水が跳ねる音が混ざる。

「海の砂ってきもちいい。けど、やっぱり冷たかった」
「当たり前じゃ」

 遊泳シーズンではない今、海が冷たいのは当たり前のことだろう。一人はしゃぐユキは楽しそうだったので、仁王は親の気分でユキの靴が波に攫われないように拾ってやり、あまり浸かりすぎて風邪ひいてもしらん、と声をかけた。

「あ、やだ」

 苦虫を噛み潰したような声でユキは言う。

「タオル、持ってきてなかった」

 濡れたまま浜へあがれば、きめ細かい砂がびっしりと濡れた箇所へ付着するだろう。それを想像したのか、うー、やら、あー、やらユキは情けない声を出した。

「ちゃんと考えて行動しんしゃい」

 仁王は波のこないぎりぎりのところへ立ち、靴をユキに渡した。素直に受け取ったユキを手招きして近寄らせる。何が起きるのか見当もつかないのか、きょとんとした顔でユキが立つと、脇と膝の下に手を入れて持ち上げた。お姫様抱っこ、というやつだった。

「へ、あ、うわ・・・雅治って大胆ね」
「お前さん砂つけたいんか?」
「それは嫌・・・・・・でもこうされるとは思わなかった。ありがとう」

 思ったよりも抵抗しなかったユキは大人しく仁王の腕の中に収まっている。小柄な彼女はやはり軽かった。

「雅治の髪って綺麗ね。きらきら光ってて、すごく素敵」

 じっと真っ直ぐ仁王を見るユキは銀色の彼の髪をみつめた。よくみれば瞳は琥珀色で、月光を浴びるとこちらも光る。星みたい。そうユキは思った。耳元に顔を近づけてユキはそっと囁いた。


 ――私、ここにくれば、また雅治に逢えると思ったのよ。






(090927)


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