「ほぉらなまえ、綺麗になったわよ!」


『…ありがと、ルッスーリア。』


あいつら、朝からホンットによくやるよなぁ。今完成した髪型で何回目だっつうの。その度にあのオカマは「可愛い」だの「似合ってる」だのいちいちうるせぇし、ガキに至ってはさっきから礼しか言ってねぇ。


「すみませーん。ここにダサダサナイフ磨きながら苛立ってる人がいるんですけどー。」


「黙れ。つーか頭のカエルはどうしたんだよ?」


「あんなの朝から被りたくないんでー、部屋に置いてきまゲロッ。」


「調子乗ってんじゃねぇよ。今すぐ取って来い。」


あぁなんだこれ。すっげーイライラする。容赦無しにナイフ刺した瞬間に、痛そうな…そうでもないような声出すんなら、血ぐらい出せっての。
こんな奴にナイフ投げたって俺のストレス発散にはならない。なーんかいつもの調子が出ねぇ。今日は仕事入ってねーし、部屋にこもるか…。なにこれ王子超ネガティブ。


「マジでフラン殺してー…。」


「物騒な独り言ですねー。」


自分の事を言われていると言うのに、なんなんだ、その余裕たっぷりな態度は。イラッ。ここにいたら頭パンクする。ダメだ、やっぱ部屋に戻ろーっと…。


「あらん?ベルちゃん、どこ行くのよ。」


「俺がどこ行こうが勝手だろ。…眠いからもう一回寝る。王子の睡眠の邪魔すんなよ。」


「あの子、反抗期かしら?」「堕王子はいつでも反抗期だと思いますー。」なんて声を背中で受け止めながら、俺は少し強めに扉を閉めた。









「(…んー…?)」


真っ暗だった目の前がぼんやりと見え始める。この感触は……ベッドの上…?
…あぁそうか。部屋に戻ってきて、ベッドにダイブして、そのまま寝ちまったのか。つーか今何時………は?三時?あ゙ーだいぶ寝ちまった…。せっかくの休日だってのに。ったく…全部あのカエルのせいにしてやる。

とりあえず俺はベッドから降りて、よれよれになったTシャツを元に戻す。横向きで寝たから首が痛ぇ。

起きたところでやることがみつからない。報告書は全部出したし、頼まれた資料も無い。またナイフでも磨くか…。マジ超インドア。引きこもりみてーだな、ししっ。


――コン、コン


ベッドにナイフを並べたところで、俺の部屋にノック音が響いた。誰だよ、こんな時に。タイミング悪すぎだっつうの。ジャッポーネの察しの文化を見習えよな。


「…誰?」


『…あの、なまえ、です…。』


は?なまえ?なんであいつが俺の部屋に来るわけ?なんか頼み事とかしてねーよな…。


「伝言ならそこでいいぜ。」


『違うっ。ベルに渡したい物があって…あの、えっと……わ、悪いんですけど、扉を開けてもらってもいいですか…?』


最後の方は声がしぼんで聞き取れなかったが、渡したい物があるって言ったのは聞き取れた。渡したい物?しかも扉開けてほしいってことは、両手で持ってるってことだ。なんなんだ?あのカエルからの差し金か?

いろいろな疑問は浮かんでいたものの、気づいたら俺はドアノブを握っていたわけで。


「………。」


『…あのっ…えっと、これ…!』


扉を開ければ、両手で皿を大事そうに持っているガキがいた。そしてその皿の上には、ガタガタにカットされたチョコレートケーキ。


「なに、それ。」


『な、なんか、朝、ベルがイライラしてるみたいだったから、甘いものあげてきなさいって、ルッスーリアが、』


「タンマ。言いたいことわかったからもう良い。」


頭悪そうに喋られたら、俺の頭までおかしくなっちまう。とりあえずルッスーリアの差し金だってことはわかった。ケーキを切ったのはコイツ。作ったのはオカマってことも理解できた。だけど。


「寝起きでこんなもん食えるかっての。」


『えぇっ!?』


頭を掻きながら呟けば、ガキは子供独特の大きな目をさらに大きく開いた。そしてその視線は、手元にあるケーキへと移る。
しょうがねぇだろ、寝起きで一番最初にそんなもん食えるかっての。胸やけするわ。まぁ確かに時間的には………あれ、前にもこんなことなかったか?


『…ベル…食べないの…?』


「食いたきゃやるよ。どーせ俺食べねぇし。」


……あ、そうだ。このガキと初めて会ったときのやり取りだ。さっきの台詞といい、まんまじゃねーか。それにこのガキも気づいたみたいで、ハッと口を開く。少しの間俺と見つめ合う。


『……じゃあ、ケーキ、貰っていい?』


「しししっ、どーぞ。」


俺はガキを部屋へ招き、椅子に座らせる。あの時とは違うこと。ガキが俺と会話できていること、ガキがフォークを使えていること、ケーキがボロボロと零れないこと。変わりにガキが、ボロボロと泣いている……はぁ!?


「なに泣いてんだよ!」


『う、ちが、くて、ひっく…うれし、くて…っ。』


「…嬉しい?」


『私、ここに、これて…ぐすっ…ベルに会えて、良かったぁ…。』


ニッコリと笑いながらボロボロと涙を零すガキを、俺はただ見つめた。ここに来て、俺に会えて良かったと、今コイツはそう言った。ここでの生活は甘いもんじゃなくて、それはコイツにとっても例外ではない。それなのに。


『…これ、食べたら、いろいろと思い出しちゃった…。ごめんなさい、ベル。』


コイツはコイツなりに、頑張っていたんだ。確かに、一般市民でただのガキであるコイツが、こんなところにいきなり放り込まれれば、普通は泣きじゃくるもんだ。
そういうの、ここの生活が長すぎて忘れちまってた。

涙はまだ落ち着かないようで、少し気を抜けばボロボロと頬から顎から落ちていく。あーもう、俺の部屋びしょ濡れになっちまうよ。

えーと、こういう時は……。


「Ehi,ho smesso di piangere.」(なぁ、泣き止めよ。)


『…Si.』(…うん。)


俺はガキの後頭部を片手で抑えて、そっと額にキスをした。これは俺がガキの頃によくスクアーロやオカマにやってもらったことだ。今思えば超気持ち悪りぃ。忘れ去りたい過去だ。過ちだ。
だが今はそれも役に立っているっていうのが余計に腹立たしい。現にコイツ、泣き止み始めている。


『ベルも食べようよ。ほら、私もうフォーク使えるんだよ!』


「つーかフォークぐらい使えて当然だけどな。ししっ、じゃあ王子に食べさせてみな。」


俺が言った後、コイツは少しだけ呆然とマヌケ面を晒した。だがすぐに我に帰り、今まで見たこともないくらい嬉しそうに大きく頷いた。












思わぬ結末









「あら〜っ!ベルちゃん、ちゃんとケーキ食べたのねぇ!」


「は?」


「コ、コ。付いてるわよ。」


「(やっべぇ…!)」





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思わぬシリーズ(勝手に命名)、完結致しました!いえい!←


まさか最初はこんなに長くなるとは思わず……二話くらいで終わらせる予定だったんですけどねぇ…。やっぱり仲良くさせて終わらせたいですよね!うん!

ベルとなまえちゃんはこれからも仲良くなっていきます。本当はベルがなまえちゃんの名前を呼ぶところまで書きたかったんですけど……呼ばないからこそ、ベルさんかなと。そう思いましたので。


ここまでお付き合い頂き、本当に本当にありがとうございます!!



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