さぁ、一仕事終わりましたよーっと。死に物狂いで私の足を掴んできたターゲットの死体を、そこら辺に蹴飛ばして軽い足取りで部屋を出ていく。今日の任務は二人で来た。私と、ルッスーリア!
ルッスーリアは私みたいに、汚い殺し方はしないんだろうなぁ。まぁ、私が使ってるのが銃ってのもあるんだけどねー…。でも、プロは私みたいに血で辺りをビショビショにしないでしょ?憧れるなぁー。
両手を背中で組んで、スキップするように、小さく跳ねながらルッスーリアを探す。どこ行ったのかなー。ターゲットなら私が殺しちゃったし、このアジトだって生きてる人間なんてもういないはずだし…。
『…お。』
とんっ、と着地した時に見えた大きな窓から覗く月が、物凄く綺麗だった。あぁ、今日は満月だったっけか。月の明るさに負けて、周りの星は微かな明かりしか見えない。月って凄いなぁ…
『ボスみたい…。』
そう呟いて手を伸ばそうとした瞬間、フッと視界が遮られた。
――しまった!まだ生き残りが…!
反射で銃を取り出そうとしたら、私の耳に聞き慣れた声が響いた。
「月を見てボスを思うなんて、ロマンチックな趣味を持っていたのねぇ。」
『ルッ…スーリ、ア?』
「あら、なぁにその声!ホントに安心しきってるじゃない。」
ルッスーリアは私の両目から手を離すと、高い声で笑い出した。そんなに可笑しかったのか、私の声は。
むくれている私に、ごめんなさいねと謝りつつ、でも油断しちゃダメよっ!なんてアドバイスなんだか馬鹿にしてるのかわからない言葉を掛けられる。あーハイハイ、どうせ私は新米ですよーっ。
「綺麗な満月ねぇ。でも、もうだいぶ傾いちゃってるわ…残念。」
『てっぺんだったらもっと明るくて綺麗だったのにね。もうこんな時間だし。』
言いながら、私は懐中時計を取り出す。繋がれている鎖が、月の明かりで眩しく光る。
針はもうすぐ十二を指す。
「にしてもアンタ、きったないわねぇ。体中ベトベトじゃない。」
『……慣れてないもので…。』
私が目を逸らしながら苦笑いで言えば、ルッスーリアは呆れたようにため息を吐いた。それがチクリと胸に刺さったので、思わず下唇を噛む。
「あぁ違うのよ!そういう意味じゃないわ。とりあえず…これでも着てちょうだーいっ!」
『わぁっ……?』
バサッと布が広がる音がして咄嗟に目を閉じると、両肩にふわりと何かが乗った感覚。
そっと目を開けると、それはさっきまでルッスーリアが着ていた隊服の上着だった。そして、いつの間にか、ルッスーリアは私の懐中時計を持っていて……
「…3…2…1……Buon Compleanno,なまえ.」
『……あ。』
気づいたら、祝われていたわけで。
「ちょっと、自分の誕生日忘れてたわけじゃないわよねぇ?」
『あ…ううん…そっか、私誕生日か……。』
なんだか急な展開で、まだ少し状況が飲み込めてはいないが、自分がたった今誕生日を迎え、ルッスーリアに祝ってもらえているのはわかった。
『Grazie!ルッスーリア!………でも、なんでわざわざ上着なんて…。』
「せっかくの誕生日なんだから、見た目だけでも綺麗にしなきゃって思ったのよ。」
『……脱いだら、元通りだよ?』
脱ごうとする私の手を払って、襟の部分を掴みながら私の視線と合うようにしゃがむルッスーリア。サングラスの向こうは、月の明かりでも見えなかったけど、とても優しい目をしている気がした。
「人なんてそんなものよ。表は着飾っているけど、中は真っ黒でドロドロなの。」
『…そっか…じゃあ、今の私と同じだね。』
「えぇ。」
お互い顔を近づけて、ふふふっと笑い合う。窓から差し込む月の明かりが、いつまでも私達を照らしてくれるように、小さな小さな願を掛けた。
たとえ何も見えなくなっても
(貴女だけは照らしてあげるわ)
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ほのぼのっ…?
いや、暗…っ!!
ほのぼのさせようとしたんだけど、暗めになってしまった…。悪い癖だ…あぁ…。
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