「…なにしてんの。」
昼。用があってこいつの部屋に来たわけだけど、なんつーか、珍しい光景が俺の目の前にあった。
『勉強ですよ、勉強。』
「なまえが勉強とかキモい。」
『…再度確認させていただきますけど、私だって人の子ですからね?』
それまで前屈みだった体を椅子の背もたれに移動させ、腕を天井に向けて伸ばす。そんなに集中してやっていたのだろうか。
「つーか勉強って、なんの?」
『It is Italian study.』
(イタリア語の勉強ですよ。)
「…It is with English?」
(…それって英語じゃね?)
英語で話してきたから英語で答えると、何か文句を言いながらなまえはガックリと肩を落とした。なんなんだ、こいつ。
『それが全く覚えられないんですよ〜。どうにかなりませんかね?』
なまえはジャッポネーゼだ。つまり日本人。イタリア語もわからない日本人がなぜウチにいるかというと、本部から派遣されたから。簡単に言っちまえば、モスカの穴埋めってトコだな。
「ししっ、じゃあ本部に戻るしかねーな。」
『そ、そんな!せっかくヴァリアーに来れたのに!』
今度はガタンッと椅子を倒すほど勢いよく立ち上がった。ったく、ジョーダンを本気にして…その椅子壊したら弁償だからな。
「じゃあ王子が教えてやろうか。しししっトクベツ♪」
『ほ、本当ですか!?』
まぁ、元々こいつに用事があって来たわけで、こっちとしては好都合ってな。まぁそんなこと絶対言えねーけど。
それなのにこいつは、お礼を言いながら目をキラキラ輝かせている。
マジ、調子狂うっつーの。
「mela."林檎"な。」
『林檎…ですね…。』
「addio.別れるときの挨拶だな。」
『アッディーオ…。』
「ん、次な。infante…ししっ、"王子"だ。覚えときな。」
『ふむふむ…。』
なまえに渡された育児用の単語集を読み上げる俺。それを聞きながら懸命にノートへと書き写すなまえ。ぶっちゃけると超つまんねー。つーか飽きた。言い出しっぺは俺だけど。
てか育児用の単語集とか、笑える。
『ベルさん、今日はありがとうございました。』
「あ?」
『もうすぐ夕飯の時間ですから…ここまでにしましょう。』
マジかよ、もうそんな時間?そう言われれば腹減ってきたような…動いてねーからよくわかんね。
『それじゃあ食堂に行きましょうか。』
「ん。」
にっこりと人懐っこい笑顔で言うなまえは、何も知らない。
今頃食堂では、きっとオカマ野郎が御馳走を準備している頃。レヴィやマーモンは飾り付けを終えてる頃だ。(鮫はボスのご機嫌取りってとこか。)
そう、だから俺はこの部屋に来たわけ。
料理も飾り付けもプレゼントも、どれも面倒じゃん?こうして話してるだけで俺の役目は果たされている。
薄暗い廊下を静かに歩く。この後のイベントを知ったら、こいつ、どんな反応するんだろうな?
「あ。」
『どうかしましたか?』
「Buon Compleanno.」
『…え?』
そういえば、この役に回ったのはコレも理由だった。他の誰よりも一番に、祝えるから。
『今のも、イタリア語ですか?』
「ししっ、あったりー。」
『でもさっぱりでした…。』
うーんと唸りながら腕を組みはじめたなまえに、思わず笑いそうになっちまった。訳さなくても、答えはこの扉の向こうにあるっつーのに。
「飯食ったら、また教えてやっから。」
言葉の壁を越えたら
(プレゼント?あー…これからも勉強、教えてやるってのは?)
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……ベ…ルッ…!!
久しぶりすぎて口調があやふやに……(-д-`;)
修正する可能性大です…。
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