その日、マーモンさんは怒っているようでした。怒っている、というよりはイライラしていると言うか……。とにかく、不機嫌であるのには変わりはありません。理由を聞きたいのだけれど、そういう類は苦手なので下手に怒らせちゃいそうです。


「マーモンのやつ、機嫌悪いよなー。」


『わっベルさん!いつの間に?気づきませんでした…。』


「さっき。つか、気配読まれてたらおしまいだし。」


『そ、そうですね…。』


マーモンさんに集中しすぎて、ベルさんに気づかなかったなんて…。だから私はまだまだ新人って呼ばれてしまうのでしょうか…。
あ、今はそんなのどうでもいいです!それよりも、どうしてあんなに機嫌が悪いのかが本題です!


『ベルさん、何か心当たりありませんか?』


「しらねー。でもマーモンのことだし、金関係じゃねーの?」


興味なさそうに棒読みで言うベルさん。ううん、あんまり参考にならなそうですね…。その間も不機嫌オーラを放つマーモンさん。一体どうされてしまわれたのでしょうか…?


『わ、私やっぱり聞いてきます!』


「…王子優しいから忠告しといてやるけど、機嫌悪いと何するかわかんないぜ、あいつ。」


笑わずに真顔のベルさん。本当のことを言っているんだと、直感的に感じられました。
ま、頑張れよと投げやりな形で、私の前から去っていくベルさん。あぁ……見捨てられちゃいました…。

ここでオロオロしていても何も変わらないので、とりあえずマーモンさんに声を掛けてみましょう!当たって砕けろってやつでしょうか?あ…少し違うかも…。


『マッ、マーモンさん!』


「ム、なんだ君か。用なら後にしてくれない?今はちょっと、いろいろと構ってられないんだ。」


早口でそう言うと、マーモンさんはくるりと向きを変えて、私の反対方向へと歩き出します。
あぁ!と思った瞬間、私はしゃがんでマーモンさんの服の裾を掴んでいました。


『ってあぁあっ!ご、ごめんなさい!』


その後すぐに手を離して数歩後ろへと急いで下がりました。体中から変な汗が吹き出しはじめています…。両手を顔の横にあげて慌てる私は、とても格好悪い姿だろう…幹部ならもっとしっかりしなくちゃいけないのに…!
その時、マーモンさんのフードの奥がキラリと光った気がしました。


「ねぇ、そこまでして何の用なの?場合によってはここで消すよ。」


『えぇ!?…えっと……マーモンさんの機嫌が、悪そうだったので…わ、訳を聞きたくて…。』


私が俯きながら言えば、マーモンさんは「ふぅん」とだけ呟きました。あ、あれ?どうしたのかな。もしかして、余計に怒らせてしまったのでしょうか!?


『ごっごめんなさい!でも私、マーモンさんが機嫌悪いの珍しいなって思って…!』


「言い訳は聞かないよ。」


言い訳、というか、焦りのあまり何を口走っているのかわからない状態の私に、マーモンさんはぴしゃりと一言だけ言いました。私の肩は小さく跳ね、涙目になってマーモンさんを見つめることしかできません。でも、それでもやっとの思いで声を絞り出します。


『マーモンさん……私なんでもします。』


「なんでも…?それは本当かい?」


『………は、はい。』


しまった、と思った時には遅かったみたいです。マーモンさんが幻覚で作ったであろう触手が、私の腕に絡み付いてきました。あれ、ていうかマーモンさん浮いてませんか…?


「本当はレヴィに任務取られて、その報酬分をどうするか考えていたんだけど……ちょうどいいのがいて助かったよ。」


『…マッ、マーモンさん…?』


「あぁ、あんまり動かないでね。抵抗したらその首へし折るかも知れないよ。」


『えぇっ!?や、やだマーモンさん!』


「なんでもするって言ったのは君だろう?…楽しませてもらうよ。」


いつの間にか笑っているマーモンさんを見て、機嫌が直ったみたいなので一応安心しました。ですが、これから私の身に何が起こるかわからない不安と、マーモンさんのフードの奥で光る目に、言いようのない恐怖が私を包んでいました。










善意は伝わらない









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鬼畜マーモン(^O^)
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