震えてはいないだろうか、無意識に目を逸らしてはいないだろうか。私はただ突っ立っているだけなのですが、何か悪いことでもいているのではないかと不安になる。
――それほど、目の前にいらっしゃるヴァリアーのボス、ザンザスさんの目力は素晴らしく強かったんです。
「…トチったらすぐにカッ消すからな。」
『は、はいぃ!』
ドスの効いた声に驚いて、思わず変な声が出てしまった。私の背後にいるルッスーリアさんが吹き出したのが聞こえた。私にも実力があればこんな恥かかないのに。バレないように奥歯を噛みしめたのだが、いや、そもそも私マフィア向きじゃないし、なんて思いとどまった。
「さて、挨拶も済んだことだし、さっそく働いてもらおうかしらねー!」
ぱああぁぁっとルッスーリアさんの周りに花が咲きだした(ように見えた)。笑顔で『よろしくお願いします』と答えておいたが、これから先何をされるのか不安でいっぱいでした。あ、これ結構ガチですからね。
るんるん鼻歌なんて歌いながら歩いているルッスーリアさんの後を付いて行くと、少し広めの中庭に案内された。
「ここの雑草処理をお願いするわ♪」
雑用かよっ!……なんて突っ込めるハズもなく、私は笑顔で頷くしかありませんでした。方法はなんでもいいから♪と楽しそうに付け足すルッスーリアさん。…草むしりが選択制だなんて初耳でしたが、とりあえず私は素手で雑草を抜こうと屈んだところでした。
――ガッシャーーーーンッ
「う゛お゛お゛ぉぉいい!?」
飛んだ。いや、飛んでいる。あれ、これデジャヴ?
ガラスの割れた音と、男の人の低い声が聞こえたかと思えば、4階の部屋から人が飛んできた。むしろ落ちている。現在進行形で落ちている。これは、地面にぶつかったらあの人、大怪我するんじゃぁ…!!
そこまで想像して、これは最悪な結末だと気付いたが、その人は大きな音をたてて地面に落ちた。見たこともないくらい砂煙が立っている。ちなみにルッスーリアさんは「あらあら」なんてのんきにその流れを眺めていました。
これはマズイと思った私は、急いでその人に近づいた。
『だだだだいじょうぶですかぁぁ…!』
とりあえず生死の確認をしなくては。派遣1日目でこんなことするなんて想像もしませんでした。普通しないんですけど。いや、そんなこと考えている場合ではない!
砂煙の中から現れたのは、俯せの状態で倒れている長髪の人。お、男の人…?あれ、なんか見たことあるような…。
脈を測ろうと手を取ろうとした瞬間、物凄い速さで逆に腕を掴まれた。
「何モンだテメェ…。」
『ぎゃあああっ!』
頭から血をダラダラ流した貞子(白髪ver.)みたいな人に腕を捕られた。こここ怖い!さっきのザンザスさん程ではないですが負けなくらい怖いです!助けてルッスーリアさんん!!
『というか血!血流れっぱなしです!怖いですダラダラです!!』
「……あ゛ぁ?」
私がその腕を振り払おうと必死になって腕を振り回しましたが、ビクともしません。というかこの人生きてますよね、生きてるんですよね?
「コレは血じゃねぇぞぉ。ボスさんのワインだぁ。」
悠長に喋りながら、私の手は離さずに、その人はゆっくりと立ち上がった。お、おぉ思っていたより大きい人だ…!待てよ…この人見たことがある、本部の資料で。私の記憶が正しければ…。
「んもうスクちゃんったら、今度はボスに何したのよ。」
「誰がスクちゃんだぁ!それと俺は何もしてねぇぞぉ!!」
ガァッとルッスーリアさんに牙を剥いたのは、私の聞き間違いでなければ、ヴァリアーの幹部の1人、スペルビ・スクアーロさんではナイデスカ…?というか、頭から流れているものがワインだったら、この人なぜ血を1滴もながしていないのデスカ…?
呆然とスクアーロさんを眺めていると、掴まれている腕を引っ張られた。
「つーか、こいつ誰だぁ?」
「派遣よハケン♪優しくしてあげてね。」
あぁボス沢田…もう帰りたいです…。私は早くもくじけそうです…。
興味無しと言わんばかりの視線を浴びさせながら、スクアーロさんは私の腕は放してくれた。「じゃ、あとはよろしくねん」と語尾をワントーン上げながら、ルッスーリアさんとスクアーロさんは何事も無かったかのように歩き出した。そうだ、私はここの草むしりをしに来たんだった。
なんだか…もう疲労感がすごいです…。
***
ぶちぶちと草を抜いていると、ふと目の前が暗くなった。太陽が隠れたのかと顔を上げると、予想外の人物がそこにいた。
「だっせーの!」
私に指を指しながら独特の笑い方をするのは、先程レヴィさんを下敷きにしていたベルフェゴールさんだ。第一声がこれですか…。まぁ私も何も否定はできませんが…。
「なに、お前なんでいきなり草むしりなわけ?」
『なぜ…と言われましても、ルッスーリアさんに頂いた最初の仕事なので…。』
否定する理由もありませんし、と続けると、ベルフェゴールさんは口をへの字に閉じた。あれ、私何か変なことを……無意識に失礼なことを言ってしまったのでしょうか!?
「なんつーか、お前硬すぎ。」
『え…、かた…?』
「そんなんいーからさぁ、ちょっと俺に付き合ってくんねー?」
『わっ、えっ、ベルフェゴールさっ…!』
今まで草を鷲掴んでいた私の手を、今度はベルフェゴールさんに掴まれる。そして強い力で引っ張られてしまえば、一緒に走り出してしまう足。あわあわしている私とは対照的に、音譜でも飛ばしそうなほど軽快な足取りのベルフェゴールさん。
『あの、私まだ草むしりがっ…!』
「はぁー?んなのどうでもいいっつーの。」
振り返りしししっと笑うベルフェゴールさん。あまりにも無邪気な笑顔なので、私もアハハ…と乾いた笑いしか出てきませんでした。
ごめんなさい、ボス沢田。私は派遣1日目で仕事をさぼりました。いや、途中までは真面目に取り組んでいました。なので許してください。報告書にはちゃんと書きますから。
「そういや、お前なんの派遣?殺し?」
『私はスパイというか…情報収集が主です。相手を気絶させることはしますが、殺しまではしません。』
屋敷の廊下で立ち止まりパッと私の手を放しながら、ベルフェゴールさんは真顔で質問してきました。本来なら夕飯の時にでも改めて自己紹介するつもりだったのですが、質問に答えないのも失礼なので。
「暇だからちょっと殺り合おーかと思ったんだけど、それじゃあダメだなー…。」
小さい独り言でしたが、ばっちり私の耳に届きました。そして物凄く物騒な単語も含まれていました。良かった、私スパイで良かった。
でも本当のことを話すと、私は山本 武さんの部下でもあるので、刀を扱うことが出来ます。昔は殺しもやってました。それでスカウトされたんですけど。でももう何年もやっていないので、今殺せと言われてもためらってしまうんです。本気が出せなくなってしまったんです。
なので、この情報は伏せておきましょう。殺り合いたくは、ないです。
「あー、ベルセンパイじゃないですかー。」
と、間延びした声が廊下に響いた。ベルフェゴールさんの体から顔を出すように首を傾けると、でっかいカエルを被った少年がだるそうに歩いてきた。少年と目が合う前にカエルを見てしまった。
そしてベルフェゴールさんは振り返る間際に大きな舌打ちをした。な、なんで。
「なんですかそれー。センパイ今回の任務誘拐ですかー?」
「ちげーよ。本部からの派遣。」
『は、初めまして!なまえと言います。数日間、よろしくお願い致します!』
私が深々とお辞儀をすると、「お前そんな名前だったんだな…」というベルフェゴールさんの声が降ってきた。し、知らなかったんですか…。
「これはこれはご丁寧にー。ミーはフランっていいますー。堕王子とは正反対で真面目そうな方ですねー。」
「しししっ、殺すぞカエル。」
褒められているのかなんなのかわからない口調で話すフランさん。そうだ、この人も資料で見た。霧の守護者で、幹部の1人だ。写真だとクールなイメージだったんですけど、けっこうアレですね、毒がある方ですね…。
離さねぇから覚悟しろ
そしてナチュラルにナイフ刺しましたねベルフェゴールさん…!!
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なっっがい…。
ここまで読んでくださっているでしょうか…。
私も書きながら少し飽き…いやいやなんでもないです。
なんとか幹部の方々は出しておきたかったんです。はい。
これでもまだ続きます、申し訳ないですが、最後までお付き合いくださいませー…!!
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