※マーモン死後直後の妄想話





それはもう、気持ちいいくらいの快晴で。こんな青空は滅多に無いから、みんなにも見てもらいたくて。窓の縁から手を離して、みんながいるであろう談話室目指して走って、『おはよう!』なんていつもみたいに挨拶する予定だった。

でも、いざその扉を開けてみると、見たこともない、険しい表情のみんながいた。声なんてかけられずに、私はただ扉を開け放った状態から動けなかった。
最初に私の気配に気づいてくれたのはスクアーロさんだった。「なまえもこっちに来て座れぇ」なんて、スクアーロさんにしては珍しい小さい声で呟いたから、私は首を縦に一回だけ振って、ルッスーリアさんの隣に座った。ルッスーリアさんは小さく挨拶してくれた。

正直、この空気、この部屋、こわい。

いつもだったら馬鹿みたいに騒いでいて、馬鹿なことで暴れて、ボスに怒られて、ルッスーリアさんとマーモンさんと一緒に呆れて……あれ?


『…マーモンさんは?』


私の中では、小さな小さな疑問だったのに、その疑問に答えてくれる人はいなかった。寝坊してんだろぉとか任務中だぁとか適当に答えてくれるスクアーロさんも、黙っている。無視されちゃったかと思ったけど、ベルフェゴールさんが歯を食いしばったので、そうでもないらしい。というか、怒らせてしまったのか…?


「う゛おぉい、よく聞けぇなまえ。」


私が不安がっていると、スクアーロさんが喋った。さっきと同じ小さい声。落ち着いた声。でもどこか、怯えているような声。


「昨日、マーモンは単独の任務があってなぁ。」


まるで幼い子に読み聞かせでもするかのように、落ち着いてた優しい声で話し始めた。少し不思議に思ったが、レヴィさんが目を伏せたので、そっちの方が気になってしまった。


「マーモンの奴、そこでしくったらしくて、」


しかし、その後のスクアーロさんの言葉で、私の心臓はドキリと跳ねた。まるでイタズラがバレた子供のような気持ちだ。イタズラがバレてしまったことへの焦りとその後に来るお仕置きへの恐怖心。ドキドキと、心拍数は上がっていくばかりだ。この業界での、しくった、が意味することは、


「死んじまった。」


スクアーロさんの声は、談話室に静かに響いた。私の隣に座るルッスーリアさんは、耐えきれなくなったのか、サングラスの下で泣いていた。ベルフェゴールさんも顔を完全に伏せてしまった。レヴィさんは拳を額に当てた。
スクアーロさんは、ただ真っ直ぐ、私を見ていた。

そんな私は、自分の心臓の音を聞いていた。自分の体内から、こんなにはっきり脈の音が聞こえる日が来るなんて思ってもみなかった。
そして、なんなんだろう、この気持ちは。言葉にしたいのに、喉に詰まってしまう感覚。言葉が溶けて詰まっているようだ。あ、とか、う、とか、そんな"声"しか出ない。


「…お前らは、しくったりすんなよぉ。」


スクアーロさんは最後にそう呟いて、ソファーから立ち上がった。任務でもあるのだろうか、隊服をバサリと羽織り、歩き出す。
待って、待ってくださいスクアーロさん。私はみんなに、見てもらいたいものがあって、それを伝えに来たんです。それだけでも聞いてください。
そう思っても、言葉は紡げず、変な声しか出ない。瞬間、私の体はバネのように弾いて、今にも出て行きそうな、ドアノブを握ろうとするスクアーロさんの服の裾を掴んだ。


「…なんだぁ。」


スクアーロさんが質問している。答えなきゃ、そう、あのね、今日、すごいそらきれいなんだよ。雲ひとつない、きれいなきれいな青空なの、


『……マ゛ーモン、ざん、もっ、みてる゛、かなぁ゛…っ。』


「……。」


スクアーロさんは振り返り、涙と鼻水でグシャグシャになってしまった私の顔を見て少し呆れたように笑うと、ぐりぐりと私の頭を撫でまくった。痛かった。でもなんだか、少し安心した。







その空の向こうに





(…あんなに目を腫らせて……馬鹿な子だね、本当に。)







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たまにはこんな雰囲気のものをだね…。
10年後の、マーモン死後直後の話。もう少しみんなサバサバしてるかなぁと思ったけど、なんだかんだみんな仲良しだから悲しんでたらいいなぁって思いました。




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