ヴァリアー邸は広い。何を今更と言われてしまえばそこで終わりなのだが、こう改めて見るとやはり広いのだ。廊下の先は見えないし、一定の間隔をあけてでかい扉がついているし、その扉を開ければまた広い部屋が出迎えてくれる。

そう、だから隠れるにはもってこいなのだ。そしてもし見つかったとしても、一戦交えつつまた扉へ向かえば、広く長い廊下を全力疾走すれば捕まることはない。うん、きっとそうだ。だから大丈夫。自分の脚力を信じれば……。


「いーかげん諦めろっつーの!」


「往生際が悪いですー。」


後ろから迫り来る堕王子とクソ蛙なんかに絶っっ対捕まらないんだから!!


『しつこいよ二人とも!しつこい男は嫌われるんだよ!』


「王子は嫌われたりしねーんだよ。」


「嫌いになっても、好きにしてみせますー。」


あぁあ話にならない!
なぜ追い掛けられているかと聞かれると、特に理由は無い。ちょっと前に体力に自信の無い私のためにみんなで「捕まったら明日はないゾ☆鬼ごっこ(XANXUSが鬼)」をやったのだが、それがきっかけなのは間違いないだろう。だってあれから毎日のようにやっているのだから。

スクアーロやレヴィ達はもう飽きたのか、元々そんなに興味は無かったのか、次第にしなくなっていった。まぁ任務がかぶったりとか、いろいろ理由はあっただろうけど、なぜかこの二人だけは未だにこうして追いかけて来るのだ。暇なのか、若いせいなのか、全く飽きることを知らない二人。普段仲悪いくせに、変なトコでチームワーク抜群なのも迷惑な話だ。任務でそれ発揮しろよな!


「なまえ!大人しく捕まんねーとおやつ食う時間無くなっちまうぜ?」


ベルに言われてハッとする。そうだ、今日はルッス手作りの新作ケーキの日だった!なんでそういうこと知ってて追いかけて来るかなぁこの二人は!
私は思わず止まりそうになった足に喝を入れて、目の前に視線を戻す。大丈夫。大人なルッスだもん。きっと取っておいてくれるはず。この時間は鬼ごっこだってみんな知ってるんだから!
後ろから「チッ」と舌打ちが聞こえてきたが、気にしてはいけない。時々使用人やメイドさん(という名の部下の皆様)を避けたり、カートをジャンプしてかわしてみたりと、なかなか自分でも瞬発力ついてきたなぁと感じていた。…おっと。今は集中しなくてはいけない…ただ走るのみ!

しばらくしてフランの「あー…」という彼独特の間延びした声が聞こえた。


「じゃーミーがセンパイの分のおやつも食べてきますねー?」


え、それはまずい。何が悪いってそりゃあ嘘を信じてしまうルッスが。
きっと「なまえセンパイが食べていいって言ってましたー」とかなんとか適当に言って「あらそうなの?」と私の分のケーキをだしてしまいそう!まずい!今かなりリアルな想像だった!


「じゃーベルセンパイ、後はお任せしますー。」


『待って!フラッ―!』


――しまった。
思わず立ち止まって振り返ってしまった私の背後に、ベルがいた。とてもいい笑顔で。あ、と思って踏み込んだ時にはもうベルの手が私の首根っこを捕まえていて、「げぇっ」と思ってもない声が出てしまった。ちなみにフランはルッスのところになんか行っておらず、ベルの後ろからひょこっと出てきた。


「ししっ!なまえつっかまーえたー。」


「今までで一番いいタイムでしたけど、ケーキ一個に負けちゃいましたねー。」


『うぅうるさい!ルッスのケーキ美味しいんだもん!世界一なんだもん!』


「もんとか言ってんじゃねぇよ。可愛くねー。」


『失礼な!』


捕まれば始まる口喧嘩はいつものこと。三人でぎゃーぎゃー廊下で騒いで(主に私とベルだが)いると、突然ベルは首根っこの手を離し私の左手を握った。


「行こーぜ。なまえ。」


『え、どこに?』


歩き出したベルにグイッと引っ張られて、バランスを崩しかける。すると、右手をフランに握られた。そして引っ張られる。


「センパイ忘れたんですかー?アホですねー。」


フランがベルの隣に並んだことで、私の両手が自然と前に伸ばされる。フランの毒舌が気にならないほど、私の頭にはハテナマークが浮かんでいた。


「ケーキ、食べんだろ?」


ベルの一言で両手を引っ張れる。さっきまで追いかけっこしてたのに、今度は私が二人を追いかけるなんて。









単純な君が好き


(ちょ、二人とも速い!手ぇ離して!転ぶ転ぶ転ぶーーっ!)






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仲良く両手を繋いでる感じが書きたかったです。手繋いでるとか可愛いい!!とかちびっ子見て悶えてました。あ、子供は苦手ですけど←



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