ふと見上げた夜空は、今まで見たことがないくらいに綺麗だった。
今日はどちらかと言えば寒い方で、吐く息もうっすらと見えた。夕食を済ませ、シャワーを浴びて、部屋で明日の任務の書類を確認していた時に、窓に視線が写った。

少し外の空気が吸いたくなって、窓を開けてみる。夜の冷たい風が体を掠めて、ブルリと震えた。
そして空を見上げれば、清んだ空気で綺麗に光る星々が見えた。


『うわぁ…!』


窓から身を乗り出して上を見つめる。どこがどの星かなんてわからないけれど、この景色が素晴らしいのはわかる。
もっと近くで見たくて、背伸びをしてみたけれど、あまり変わらない。もっと上へ、もっと高いところへ行かなくては。

私は窓から弾かれたように走り出し、階段を駆け上がる。上。この屋敷の最上階。それはもちろん、ここのボスである、あの方のお部屋なのだが。


『ボス!窓開けていい!?星が見たぎゃあああ!!』


「ドカスが!今何時だと思ってやがる。」


扉を思いっきりバーン!と開けば、容赦無くワインボトルが飛んできた。いつもはグラスなのに、本体が飛んでくるということは、今ボスは相当機嫌が悪い。なんということだ。


「…てめぇ今星っつったか。」


『え、あ、はい。今日は星が綺麗に見えるので、高いところで見ようかな、と。』


「とんだロマンチストだな。」


ボスに鼻で笑われた。でもさっきよりは機嫌が良さそうだ。
それにしてもボスが星の話に食いついてくるのは意外だった。


『ボスも見ましょうよ、星。綺麗ですよ?』


ドキドキしながらボスを誘えば、ボスは黙って真っ直ぐ私を見つめ、何か考え出した。そして、何か思いついたかのようにニヤリと笑った。


「もっと近くで見たいか?」


それは私を殺して星になれという意味でしょうかボス。少し青ざめながらも、逆らうことが出来ない私は震える声で「はい」とだけ答えた。するとボスは黙って部屋から出て行った。ついて来い…かな。ここでは殺さないといことでしょうかボス。


どうやら私を殺すつもりは無かったようで、私達は今、ヴァリアー本部の屋上……いや、屋根の上に居る。斜面はなかなか歩きにくかったが、今までで一番星が近い。


『すごーっい!綺麗!』


「少しは静かにしろ。」


窓から見たときより広がった夜空に、私は両手を広げてはしゃいだ。真っ黒な背景にキラキラした小さい物が散りばめられているだけなのに、どうしてこう感動できるのか。

しばらく夜空を見上げていたら、手を伸ばしてみたくなった。届かないことなんて、十分過ぎる程理解していたが、やってみたくなってしまうのだ。


「掴めると思ってるのか。」


『いいえ。でも、やってみたくなっちゃって。』


えへへと笑う私に、ボスはまた鼻で笑った。空(くう)しか掴めなかった自分の手を見つめながら、ふと思いついた考えに可笑しくて笑ってしまった。


『まるでボスみたいです。』


「あぁ?」


『広くて綺麗で、目の前に居るのに、掴めない。』


大空と夜空は表と裏なのだ。全てを包み込む大空に対して、夜空は全てを飲み込んでしまう。星々の美しさに見取れていたら、飲まれるのは時間の問題。


『でも、どこか惹かれてしまう。』


手から空へ視線を戻せば、星はまだ輝いていた。その存在を主張しているかのような、ただ魅せるために輝いているような。


「…てめぇは……。」


『さっ、冷えちゃう前に戻りましょう!ボスが風邪引いたら私がスクアーロに殺されちゃいます。』


ボスの背中に手を当てて、グイグイ押したら殴られてしまった。急かされるのは嫌いらしい。部屋に戻るボスの背中を見つめながら、私はこっそりニヤついていた。









さぁ、
今夜も星を見よう









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ほのぼのにしたかったのになぁ……なぜいつもこうなってしまうんだ…。



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