寝坊なんて思わぬ出来事だった。朝ご飯も食べていないし、お弁当だって忘れた。化粧だってしていないし、髪もぐちゃ。本当はこんな姿で学校に行きたくないけど、休むことなんてできやしない。
はぁ、はぁ、はぁ、と息切れをしながらわたしは走り続ける。あと学校まで約50メートル、40、30、20、…あとちょっと!と期待を抱いたのも束の間、予鈴が鳴り響き、わたしの遅刻は確定した。

「遅刻をした者は、君だけか。…指導をするから、こっちへ来なさい」

この声は雲雀先生だ、まさか遅刻者の指導をしているのが先生だったなんて知らなかった。だから、たまに副担任の人がHRをやるのか。生徒指導室に連れて行かれ遅刻届けを書かされる。

「なんで遅刻したの?」
「単純に寝坊です」
「馬鹿だね。…君、今日化粧とか何もしてないの?」
「うぅ、見ないで下さい」

まじまじとわたしを見る先生。嬉しいけれど、見られたくない、複雑だ。ち、近いよ、凄く近い。だめだ、緊張して、くらくらする。

「そんなに顔赤くして、名字さんは、僕に惚れてるの?」
「ち、違いますよ」
「ふうん」

先生はふっと鼻で笑うと、僕、名字さんのこと嫌いじゃないのと言った。先生なのに、生徒にそんなこと言っても良いのだろうか。でも正直なわたしはそんなことを言われて平常心を保てるような人じゃない。本気にしちゃうのがわたしなのだ。

「先生はずるいですね」
「なにが?」
「わたしが先生に好意を寄せているって知ってて言っているんでしょ?」
「さあね。で、名字さんはどうする?僕の恋人になる?」

ごくりと唾を飲んだ。先生と生徒の恋愛なんていけないってわかってる、わかってるのに、わたしは首を縦に振ることしか出来なかった。



少しだけ楽しそうに笑った先生に、今までで一番すてきだった。



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2009.0928.雫

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