カツカツカツ、と音を鳴らしながら女の人はわたしにゆっくりと近づいた。わたしはうるさい心臓を押さえながら、女の人を見据える。
「恭弥があなたと出会ってから、おかしくなったのよ」
女の人はそう言うと、わたしの頬を一発叩かれ、パァンと渇いた音が響いた。ひりひりと頬が痛む。第一、なんでわたしが叩かれないといけないの?わたし、何にも悪いことしていないのに。痛む頬を押さえながら、女の人を見つめた。
「今はあなたと別れて、恭弥はわたしと付き合っているけれど、いつも上の空でつまらないの。原因はあなたしかいないわ」
「もう別れてるのでわたしが原因という訳ではないと思います」
「生意気な女っ」
もう一度叩かれ、さっきより頬の痛みが増す。わたしだって叩き返したいけど、ここで叩き返したって、女の人は先生に良いように言って、わたしが悪人に成り立たされてしまう。そんなのは御免だ。
「もういいですよね。わたしは帰ります。先生と幸せになって下さい」
わたしは駆け足でその場を立ち去る。泣いちゃ駄目だ。泣いちゃ、だめ。こぼれ落ちそうになる涙を拭いながら、家へと向かった。
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次の日、鏡をみるとまだ頬が腫れていた。あのビンタ凄く痛かったし、2発も叩かれたんだから、腫れるに決まっているか。一応冷やしたのだけど、余り効かなかったみたいだ。冷却シート、貼っておかないと。
学校にいくと友達はわたしの頬を見て「どうしたの?」と尋ねる。言う訳にもいかなくて、軽く笑ってごまかした。やっぱり頬に冷却シートを貼っているのは不自然なのか、廊下を歩いていたりすると、ちらちらと生徒に見られる。今日は古典の授業があるからな、先生に見られたくないんだけど…平気だよね、
「じゃあ、名字さん」
あ、今日は当たる日だってことすっかり忘れてた。わたしは立ち上がり、当てられた部分の答えを探す。
「えっと、推量です…」
「…………正解です」
その言葉を聞き、わたしは席に着く。先生、今の間…わたしの頬見てたな。なんにも聞いていないのかな?あの女の人から。まあ、言うわけないよね。
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(110307)