「今日の授業はここまで、宿題は無し。それと、話があるので、放課後名字さんは、応接室に来なさい」

パチンと出席名簿を閉じて先生は言った。わたしは先生と付き合えたのに、一週間以上、なるべく目を合わせなかったし、連絡だって一度もしていない。なんだか、付き合う前より遠くなった気がする。(自分が悪いんだけど)

ゆっくり、ゆっくりと応接室へ向かった。どんな顔して先生に会えばいいんだろう。多分、先生は怒っているからなあ。

「おや、君は」
「あ」
「もしかして君、応接室に行くんですか?」
「は、はい」

わたしの目の前に現われたのは、六道先生。くすくすと笑って、わたしを見る。なんだか、失礼な人だ。

「クフフ、じゃあ失礼しますね」

わたしの顔を見て、笑って、さようなら、なんて失礼な。わたしが不細工だって言いたいのかなあ?まあ、不細工だけど。……、酷く緊張する。もう、目の前は応接室なのに、ノックするのが怖い。思い切って、ノックをしようとした時だった。ガチャとドアが開いて先生が顔をだす。

「やあ、名字さん。待っていたよ」
「…こんにちは」

ここにおいで、そう言われて思わず「は?」と言ってしまった。だって、先生が言っている“ここ”は膝の上なんだから。先生は、早くしなよとわたしを急かす。

「し、失礼します」

ばくん、ばくん、と心臓がうるさい。わたしが座ると先生はぎゅうとわたしを抱き締めた。う、わあ。恥ずかし、恥ずかし過ぎる。

「君、凄くドキドキしてるね」
「う…仕方ないですよ」
「君って、面白い」

くすりと意地悪そうに先生は笑った。わたし、先生の笑った顔が凄く好き。かっこよくて、綺麗で、わたしには無いものばかり。

「何で連絡くれないんだい?」
「えと、それはですね、」
「ふ、どうせ君のことだから、何て連絡したらいいか、わからなかったんだろう?」
「…ごもっともです」

そんなことだろうと思った、と先生は呆れたように言った。ぐしゃぐしゃと乱暴にわたしの頭を撫でる先生。「何するんで…、」何するんですか!と言ってやりたかったのに、言えなかった。ぱちぱちと瞬きをして、見えるのは、先生の顔。しばらくして、唇が離れた。そして先生は一言、

「君の唇って柔らかいね」

いえ、先生の唇の方が柔らかくて、気持ち良かったですよ。



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2009.1010.雫
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