埋めようのないゼロセンチ

俺には生まれてからずっと好きな子がいるんです。生まれた頃の記憶なんて持っていないけど、気づいた時には好きだったからきっと生まれた時から好きなんだと思います。その子は可愛くて、誰にでも分け隔てなく接しててちゃんと自分の意思も持っていて、強くて、でも時々に壊れてしまいそうな程に弱い。その子とは所謂幼馴染みで、断るごとに一緒にいるせいか彼女は今でも俺の前で時々着替えようとするし、朝起こしにいったり寂しいって言葉を漏らした時は添い寝もしたりして、物理的にも精神的にもその距離はほぼゼロ。けど、だからこそそれは埋めることの出来ない距離なんだ。恋人として。その子の名前は碧矢恋。今、俺の目の前で笑っている子。

『ん?どうかした?』

「え?な、なんでもないよ?」

『本当に?私の顔に何かついてたりしてない?』

「あはは、してないから大丈夫」

『良かった〜』

吃驚した、俺が考えてたこと、当てられるかと思った。もし、もしもこのまま恋を抱き締めて、好きだ、って言ったら君はどんな反応をするのかな?いや、きっとそんなことをしても私も好きだよって返されてしまうだけだ。俺が求めてる好きとはきっと違う。

『今年は雪降らなかったね』

「東京じゃ滅多に降らないからね」

『だからこそ降ったら楽しいんだよ〜!』

「はしゃいで次の日熱出したの誰だっけー?」

『うっ、長太郎ってば酷い、意地悪』

「ははっ、ごめんごめん」

『仕方ないから今日だけは許してあげよう!』

「ありがとうございます」

幾分と背の高い彼を見上げながらも偉そうに腰に腕を置き、威張る姿はなんとも微笑ましい。その際然り気無く彼女の目線に合うよう屈んでやる彼は優しいと言えるだろう。自然と出来てしまうのは彼が元から優しいのもあるだろうが、昔からの付き合いだからなのかもしれない。

『そうだった!忘れるところだった!』

「なにを?」

『長太郎へのプレゼント!』

「それは忘れられたら悲しいなぁ」

『忘れそうになっただけで忘れてないってば〜!』

「はいはい」

『もー、そんな意地悪な子にはあげないよ?』

「ごめんなさい、ください」

『ふふ、冗談だよ!』

「良かった」

『プレゼントはね、長太郎のお願い事!』

「へ?」

『欲しいものでもしてほしいことでもなんでもいいよ?』

「ああ、そうゆうことか!本当になんでもいいの?」

『うん、なんでも!』

無邪気に笑う彼女はとても残酷だ。彼が欲しいもの、なんて1つしかなくて。けれどそれを言ったところできっと彼女は理解をしない。ゼロには何をかけてもゼロにしかならない。例えもしも理解をしたとしても今度はその距離が離れてしまうかもしれない。それ故に彼は悩んだ、彼女として隣にいてほしいと言うべきかと。

『もしかして、欲しいものない?』

「ううん、あるよ。けど、恋に叶えてもらえるかな」

『出来る!』

「・・・・・恋。俺は君が欲しいよ」

『え、私?私は元からずっと長太郎の隣にいるよ?』

「幼馴染みとしてじゃなくて、彼女として隣にいてほしいんだよ、」

『!!』

「ほら、恋には叶えられないでしょ?」

『そんなこと、ない!彼女ってどうすればいいのか解らないけど、そうしたら長太郎が他の女の子に好きって言ったりデートしたりするのを見なくて済むんだよね?』

「う、うん。今のところそんな予定もなかったけどそうなるかな?」

『それなら長太郎にあげるよ、プレゼント』

「!!」

果たしてこれは本当に現実なのかと彼は自分の耳と目を疑った。それは予想していた答えとは全く別のもので、自分が求めていた答えだったから、だ。しかし目の前ではにかむ彼女を見ればそれが嘘ではないのだと理解できる。彼もまた、彼女につられるようにはにかみそして愛しい人をそっと抱き締めた。

「埋めようのないゼセンチ」
今埋めてみせよう。

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題名的に報われないお話向けでは、と思いながらもハッピーエンドにしたくてどうにかこうにかした結果ですお許しを〜!!!



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