おやすみなさい、良い夢を
※説明不足のところは最後のあとがきに追記しております!
AM6:00
「起きたまえ」
「・・・」
「起きたまえ」
「うー・・・」
「おい」
「 ・・んー」
「いい加減にしたまえ!」
「ぎゃーっ!」
ゴッ という鈍い音と共に、創痍はベッドから落下した。彼は床に盛大に頭をつぶけると同時にひどく苦しそうなうめき声をあげ丸まった。
「ひ、っ・・・久秀・・こんな乱暴な起こし方はしないでって言ったじゃん・・・」
「この私が直々に起こしてやっているのにいつまでたっても起き上がらない卿が悪い」
あなたは俺のケータイでしょう!という言葉は飲み込んだ。そう、久秀とは創痍の携帯電話である。技術がハイレベルの水準で発達したこの時代、携帯電話はついに人型にまでなってしまった。それらは人と同じに多種多様であり、どの会社も生き残りをかけて様々な工夫を凝らして発売している。
創痍のそれはMH-0151という品番で、松永久秀という名前を持っている。(どの携帯電話にも同じように名前がつけてある)最新機種と比べ、古い世代のものではあるが、創痍が慣れ親しんだものである。周りが新しいものへと機種変更をしていく中、創痍は確固として久秀を持ち続けた。
「それはそうと、創痍。充電をしてくれないかね、このままだと一日持たないよ」
「あ、そっか。ごめん、昨日何もしないで寝ちゃったから・・・」
人型といえども充電は持ち主がするものである。手荒な起こし方をしたものの少し久秀の動きがぎこちなかったのはそのせいか。出勤するまでの時間はまだ十分にあるため、充電器を取り出して久秀に繋いだ。
「 おはよう、久秀」
今更ながらの言葉を久秀にかけるころには、彼は既に深い眠りについてしまっていた。
PM12:16
「いただきまーす・・・」
視線を感じる。
「久秀・・?」
「カレー弁当か・・・卿は相変わらず子供のようなものを食すのだな」
「いいじゃん別にーおいしいんだし」
「786キロカロリー・・、恐ろしいな。野菜摂取もせずにカレーだけとは実に不健康極まりない」
「お母さんみたいなこと言わないでよ!」
久秀は携帯だから人間の食物はもちろん食べることができないし、食べてしまえば間違いなく故障する。彼らの動力は電気だから。しかし創痍にちょっかいをかけながら後ろから彼の食べているものを物珍しそうに除く姿は、それを食してみたいからだろう、と創痍は推測する。
「人型じゃなくて、ほんとうに人間だったらよかったのに」
つぶやいた言葉が久秀に聞こえていたのかは分からない。
PM6:38
「おい宮野!飲み行くぞ!」
「またですかー?」
「こら!先輩に口答えするな!」
仕事が終わって、今日はまっすぐ家に帰ろうと思った矢先に創痍は上司からそう声をかけられた。仲のいい先輩ではあるが、この感じだとまた女の子に振られた愚痴を聞かされるかもしれない、と創痍は思った。しかし断ることはできず。
「よし、行くぞー!」
「はぁい・・」
彼の背後にいる、携帯電話が『すいません』と申し訳なさそうに創痍と久秀に謝ってきた。"彼女"は中々に礼儀正しく感じの良い携帯である。いいよ、と返す創痍。久秀も『構わないよ』と、言って人の良さそうな笑みを浮かべた。腹の中はどうなってるか分からないけれど、と創痍は考えつつ、本当にこの"人"は外面はいいんだよなあ、と思った。
AM1:24
結局家に帰り着いたのは次の日付になってから大分あとであった。
「あー疲れた、」
家に帰るなりベッドに倒れこむ創痍。しかし、久秀は居酒屋を出て、先輩と別れてからからずっと不機嫌そうな顔をしていた。
「久秀?どうしたの」
「・・あの男とばかり喋っていたな、卿は」
「そりゃあ・・・先輩と飲みにいったんだしねぇ・・・?」
意地悪くそう答えたら久秀は面食らった顔をして、そしてまた不機嫌そうな顔に戻ってしまった。
「あはは、ごめん久秀、 機嫌直してよ?」
起き上がった創痍が久秀の顔を下から覗き込んで、手を握った。
「こっち来て?一緒に寝よう」
「誰が卿なんかと、」
「だめ、俺が一緒に寝たいんだ」
ぎゅ、と力を込めて久秀の手を握れば、久秀はばつが悪そうにベッドの上の創痍の隣に座った。
「風呂は」
「今日はもういいや、疲れたし明日入る。どーせ休みだし」
「酒臭い体で私に添い寝しろというのかね」
「そんなこと言わないでよー!」
はいはい、もう寝るよ。と子供をあやすかのように創痍が言って、久秀の肩を抱いて横になった。その言い方が久秀はひどく気に食わなかったが、すぐに寝息をたて始めた創痍を見てしぶしぶ目を閉じた
おやすみなさい、良い夢を
おわり
▼あとがき
※ケータイを充電する=ケータイは就寝するという設定です
※カロリー計算できるのはそういうアプリが入っているとか
※機械だから自主的に眠ることもできないので、最後のシーンは寝るフリをしています。人間になりたいなと思う現れだと思います
久秀を機械と見るか、人と見るか そんな考え方の間で悩む主人公。
主人公が好きだけど、主人公は自分のことを機械としてしかみていないのだろうと思う久秀。
そんな感じです。恋人とかではない感じ。友達以上恋人未満です