「千鶴」
「はい、総司さん」

僕が名前を呼べば、隣では笑う君がいる。こんな些細で小さな幸せを僕は何度願っただろうか。刀を奮い、幾度も血を浴び続けてきた僕にとってそれは手にすることは酷く難しいものであった。近いはずなのに遠くて、届きそうなのに届かなくて。そんな時代を駆け抜けてきた僕だからこそなのかもしれないが、この小さな幸せも僕にとってはかけがえのない大きな幸せであった。
彼女の艶のあって柔らかな黒髪に指を絡める。それはくるりと僕に巻き付いてすぐに解け離れてゆく。彼女の髪は驚くぐらいに真っ直ぐだった。その様は真っ直ぐで芯のある意思を持った彼女の人格を表しているようだった。

「千鶴、すきだよ」
「…!」
「ん?どうしたの?」
「ふ、不意打ちは…ずっ、狡いですっ」

彼女はいきなりの僕の言葉に相当驚いたようで、顔を真っ赤にさせてあわあわと慌てふためいていた。その様子があまりにも可愛くて僕は思わず笑ってしまう。それを見た彼女は恥ずかしかったのか更に顔を赤く染めあげた。

「かっ、からかってたんですか…!」
「いやいや、そうじゃないんだ」
「で、でも、笑ってるじゃないですかっ」

だって君があまりにも可愛いものだから。なんて言ったら彼女はきっと倒れてしまうだろう。僕は彼女を引き寄せて優しく抱きしめた。

「この気持ちは本物だ。千鶴、好きだよ」

ずっとこの時のまま止まってしまえばいいのに。彼女を抱きしめながら何度もそう願う。この幸せが消えてしまわないように。いつまでも彼女と共に在れるように。
だから僕は今日も、目には映らない神様へと願いを乞うのだ。


20100722

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