何度この天井を見上げただろう。目を開ければいつもこの天井が僕を出迎える。僕はいつまでこうしているんだろうか。明日?一月後?それとも一年後?答えは全て否だ。だって僕の体だもの。大方予想はつく。僕の体は刻々と労咳に蝕まれ続けているのだから、この命が消えるまで延々と天井を見上げ続けるのだ。いっそのこともう死んでしまおうか。刀を振るえず、まして刀を握ることさえできないこんな僕なんか。できることなんて新撰組のお荷物になるぐらいだ。だったら自ら命を断ってしまったほうがましだ。体を起こし、月明かりを頼りに枕元へと置いてある刀へと手を伸ばす。カタカタと震える腕を無視して、今出せる最大限の力で刀を握る。あんなに軽々と腰に差し、日々持ち歩いていた刀が今ではずっしりと手に乗っかかってくる。…いつから僕はこんなに弱くなった?これが一番組隊長だった僕?近藤さんの刀?込み上げてくる何かを抑えるように唇を噛み締める。
すると、誰かがこちらへと来る気配がした。それはそろりそろりと音を立てないよう忍び足で近づいていた。そして僕の部屋の前へ来るとあっちへ来たり、こっちへ来たりとうろうろし始めた。

「こんな時間に何か用?千鶴ちゃん」
「……!」
「そんなとこでうろうろしてないで入って来なよ」
「……し、失礼します…」

閉じられていた襖が申し訳なさげに開けられ、そこから千鶴ちゃんが遠慮がちに入って来た。

「どうしたの?もしかして夜這い?」
「ちっ、違います!!」

「なーんだつまんない」と言いながら僕は起こしていた体を元に戻した。千鶴ちゃんは依然として表情は固いままだった。

「その…」
「ん?」
「…沖田さんが、何処か…遠くへ行ってしまいそうな、気がして……」

息が詰まったような感覚がした。どうして、この子は。僕は動揺が漏れないよう必死に平静を装った。

「…どうしたのさ、いきなり」
「じ、自分でもよくわからないんですけど…」
「…君って本当、不思議な子だよね」
「そ、うでしょうか…」
「そうだよ」

本当にね。千鶴ちゃんは下に向かせていた顔を更に俯かせる。その顔はどこと無く泣きそうな、不安そうな顔をしていた。どうして君がそんな顔をするの?僕と君は何でもない関係なのに。ましてや君にとって僕は命を脅かす存在でしかない筈なのに。

「……沖田さん、」
「なぁに?」
「…急にいなくなったり、しないでください、ね……」

そう言う彼女の声は酷く小さく、心なしか肩が震えていた。
ああ、もう。どうして、どうして。こんなにも、胸が締め付けられるんだろうか。僕にとって彼女は居ても居なくても同じ存在であった筈なのに。それなのに彼女の存在は僕の中で確実に、着々と大きなものへとなっている。

「…当たり前じゃない」

僕はあと何度、この天井を見上げるのだろう。あとどれくらいの間、彼女の願いを叶え続けてあげられるのだろう。その短いであろう期間は既に僕は知っている。そして彼女もきっと知っている。不安なのだ、彼女も。そんな不安を少しでも拭えたら良いと、彼女の髪を優しく梳いてやることしか今の僕にはできなかった。


20100704

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