あなたが遠くへ行ってしまわれてから、幾つもの季節が巡って、幾年も経ち、あれから何度目かわからぬ冬がやって来ました。私はすっかり老いてしまいました。肌は黒ずみ、皺が深々と刻まれ、きっと私は醜いことでしょう。黒々と力強かった筈の髪は色を変えて抜け落ち、あなたが見たらきっと残念に思うことでしょう。あなたが優しく梳いてくれた髪が一本、また一本と抜ける度、あなたの掌の温度と優しさも一緒に抜け落ちていくようで、私は不安でたまりません。早く、あなたに会いたい。会って抱きしめてもらいたい。あなたはまだ迎えに来てはくれぬのですか?

春になり、桜の花が咲き誇り、花びらがはらはらと目の前を舞っていきます。縁側から桜の木を見上げる度、まるであなたが傍にいてくれているような不思議な感じがします。時折優しく肌を撫でる風の音があなたの声のように聞こえて、枯れた筈の涙が一筋流れ落ちました。
(嗚呼、そろそろ…でしょうか…)
目蓋が急に重くなって、淡く色づく桜の花が滲んでいきます。どんどん狭くなる視界と、鈍くなる思考の中、私の胸は幸福でいっぱいになりました。やっと、あなたと同じ場所へ行ける。やっと、あなたに会える。
「そ、うじ…さ……」

力無く腕を伸ばすと、大きな手が、私の知っている優しい手が私の手を握り、そのまま私を抱きしめました。嗚呼、私はこの温度を、匂いを、優しさを知っている。

「千鶴、迎えに来たよ」
「そうじさん…総司さん…!」
「もう君を離しはしないよ」

温かな日だまりに包まれて、私はそっと瞳を閉じた。桜がはらはらと空を舞って、静かに消えた。


20100702

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