ばたばたばた、世話しなく駆けてくる足音が近付いてきてクラサメは溜め息を零す。士官以上の者が住まう区域に恐れなく入ってくる者は容易に想像出来、その推論の結果はバタンと派手な音を立てて開けられた自室の扉から入ってきた彼をもってして証明された。

「クラサメさぁん!!!」
「五月蝿い、今仕事中だ」
「ちょ!?」

先程の授業で行った抜き打ちテストの採点をしていたクラサメは、扉をぶち破らん勢いで入室してきたキリアを見やる事もなく、そう言い放つ。にべもなく言い切られ、肩を落とすキリアの傍にベッドに腰掛けていた小さな彼が軽い足音を立てて歩み寄る。

「………クラサメさんも酷いよ、トンベリちゃん…」

足元にてぱたぱたと手を振るトンベリを抱き上げて、扉の近くに置いてあった丸椅子の上に彼を置く。視線の高さを合わせるようにしゃがみ込み、キリアは包丁を手にしていない彼の緑の小さな両手をつかんで上下に振って、吐いた溜め息ごと頭を下ろした。

「………………」

いつになく落ち込んでいる彼を見かねたらしく、繋がれたままだった両手を離してトンベリは椅子から落ちないように身体の位置をずらして軽くキリアの頭を叩く。あまりにも可愛い彼の気遣いがよほど嬉しかったのか、少し元気を取り戻したらしいキリアが、腕を伸ばしてトンベリの頭を撫でれば彼は嬉しそうに小さく鳴いた。

「……まったく、何時まで落ち込んでいる。何があった?」

採点が終わったらしきクラサメが、未だに扉の前に居座っているキリアに呆れた様子で声をかける。時折自室に乱入してくる後輩の用事はだいたいパターン化しているので、今日は一体どれだと知らぬ間に溜め息が漏れた。

「………ナギと喧嘩した」
「謝ってこい!」

躊躇いがちに視線を外してそう呟いたキリアを蹴り飛ばさん勢いで部屋から追い出す。またそれか、いい加減にしろ!と扉を閉める間際にクラサメが叫んだ為に、喧嘩の内容が悟られていると気付いたキリアはひとつ長い息を吐いて、ナギに謝るべくその場を後にした。


そんな日も、ある



「いいかトンベリ。ナギがキリアに怒るのは大概あいつが無謀な戦い方をした時だ」
(………こくり)
「そしてキリアがああも落ち込んでいる時は自覚している証拠だから、優しくしてやらなくていい」
(…………)
「謝って戻ってきた時にでも、フォローしてやればいい。ただ、死んだらいけないとはお前も怒ってやってくれ、な」
(…………こくり)






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