とりわけ美人とか、頭がいいとかじゃなかったけれど、明るくて優しくて、リリアスは皆の人気者だった。
そんな彼女と明確に付き合い始めた頃なんてわからない。自然と傍にいて、いつの間にか身体を結んで、共にいた。
訓練生からの付き合いで、勇猛果敢だった彼女は2組、俺は9組。不釣り合いだと笑われて憤慨したのは、俺ではなくて彼女だった。

「ぁれ……ナ、ギ…?」
「…ああ」

汚れるのも構わず、俺は血溜まりに膝を付く。力無く伸ばされた手の平を取って、消えかけた温もりの、冷ややかさにぞっとする。柄にもなく、身体が震えた。

「…さく…せ……は…?」

喋らなくていい、喋るなと、助けるからと、言えない自分。見慣れ過ぎた光景と重なる現状に、もう助からないと頭は冷静に判断を下していた。

「成功したから、気にすんな」
「そ、か……良かっ……た…」

耳元のCOMMは喧しく帰投しろと一点張りの指示を繰り返す。作戦は確かに成功した、多大な犠牲の上に。9組の任務を知られるわけにはいかないから、との理由での帰投命令。でも、ここで立ち去れば、もう。

「私、も……忘れ、ら……りに……な…ね…」

まさかそんな、自分から、と驚きに目を見開く俺を見つめて、光すら消えそうな琥珀の瞳が優しく細まる。どうしてこの状況で微笑えるのか判らず、俺はただただ彼女の手を握りしめた。

「…ナギ」
「なん、だよ」

声が震える。
相も変わらず優しい彼女の顔。
どうにも出来ないもどかしさが苦しい。こんなに、こんなにもリリアス好きだなんて、惚れ込んでたなんて、今更のように。

「な………い…で、よ…」
「泣いてねぇよ、バッカやろ…」
「つよが…な、とこ…も……き…よ…」

きゅ、と握り返された手に驚く。
唐突にぽっかりと胸に空いた喪失感。
思わず離したその子の手のひらが重力に逆らわずに地に落ち、反動で小さく飛沫が舞う。


地面に広がっている紅。
その、頬に跳ね付着した朱を拭おうと手を伸ばして俺は首を傾げた。


「なんで濡れてんだ…?」


頬をつたう
涙の意味すら、わからない。



Non-memory
(ただ胸に残る感情の名前だけは知っていた)





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