戦争の最中だという事を
忘れてしまいそうな昼下がり。


「ねぇ、エース」
「どうした?」


見て、と言って差し出された花。
摘まれたばかりの花と小さな手。
受け取って、キレイだなと返せば
彼女は顔をほころばせた。


「それね、薬にもなるんだよ」


花びらはそのまま食べていいし
葉っぱはすり潰して絞った汁を
塗ればいいんだよ、と楽しそうに語る。


「詳しいんだな」
「ザイドウ伯父さんが教えてくれたんだー」


あの気難しい学術局局長の、
唯一のお気に入りの彼女。
彼の姪っ子だと知ったのは、
本当につい先日。


「リリアス」
「んー?」


笑う彼女の額に口付けを。
ぽんっと音が立ちそうな程
瞬時に肌が朱に染まる。
照れたようにはにかんで
お返しといわんばかりに
小さな彼女は背伸びを一つ。
頬に、掠めるだけの温かな。


「そーだエース、この間の約束なんだけど」
「わかってる。帰ってきたらな」
「うん!ありがとう、大好きだよエース!」
「ああ僕も」


「いい加減に起きてくださいエース!」

「……デュー…ス、?」
「集合時間になりますよ!」


浮上した意識。目の前には
ちょっと呆れた表情のデュースと
溜め息を吐くトレイの姿。


「また、寝てた…?」
「ええ。それにまた寝言を言っていましたよ。…残念ながら聞き取れませんでしたが」
「そうか…」


夢の内容を覚えていないのは
いつもの事。
覚えていられない
それをどう、
と思ったことはなかったのに
この時だけは
胸の奧が何故か少し苦しくて。


「…お疲れですか?」
「いや、大丈夫だ」


さっきまでの表情から一転、
心配そうに首を傾げたデュースに
言葉を返して頭を振る。
思い出せないものは仕方ない。
忘れてしまうのが世の常だ、と
無理矢理結論づけて
自分を納得させて
エースはゆっくりと息を吐く。


「では、教室に向かいましょうか」


腕時計を指しながらトレイが言う。
集合時間まであと少し。
ああ、と短く返事をして
ベンチから立って教室へと足を進める。


見送るように、その後ろ。
強い、一陣の風が吹き抜けて
碧い花弁が空へと舞った。




そうして僕は
(君を忘れてまた走り出す)






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