舞うは、赤い、紅き花弁。
夕闇色の、深く濃い、朱。

風と同じく通り抜けると噂され。
噎せるばかりの芳醇な香を残す。
標が如く染まる石畳に散る花唇。

それは恐怖の代名詞。



肉を裂く手の、えもいわれぬ感触。
生ぬるい鮮血が、白磁の肌を汚す。
赤黒い血溜まりで、陶酔し嘲笑う。


「ねぇ、キレイでしょう?」


纏う雰囲気が酷く蠱惑的。
歪んだ半月を描く唇が甘く誘う。
差し出された真白い手。
取れば自分も血溜まりの仲間入り。


「……ああ、美しいよ、リリアス」


賛辞の言葉に彼女はワラう。
塗りつぶされた正気。
覆いつくした狂気。
美しく変貌したかつての恋人。


「ねぇ、ケフカぁ」
「なんですか?」


もっと、朱に染まればいいのにねぇ。


酷く甘ったるい声音で残酷な言葉。
そう呟いた彼女の姿は可憐なまま。
ふうわりと風に揺れる亜麻色の髪。
昔のように、
彼女に触れることはもう出来ない。

細腕から繰り出される、
魔物をも超えた力。
処分を、
と求める声もわからなくは無い。


「リリアス」
「なぁにぃ?」


微笑む彼女は昔のまま。
華開くような、綺麗な笑顔。
瞳の奧、深遠だけが濁り暗い。


「今でも、愛していますよ」
「ありがとぉー♪」


魔導の力。
もっと早く
見つかって欲しかった。

幸せな日々は還らない。
狂気に魅入られた天才学者。
研究に次ぐ研究の成果は確かに
誰もが驚く程の功績を上げた。
大き過ぎる代償と引き換えに。


「貴女と出会えて、幸せでした」


獣も魔物をも凌駕する
恐ろしくも可憐で儚い
血溜まりで踊る彼女。

静寂が歌う恐怖の回旋曲。
狂ったような高笑い。
それでもなお美しい。
一筋の雫が頬を伝う。


「どうし…――っ!?」


鮮血が散る。
貫いた彼女の胸。
陶磁の肌が血に濡れる。



朱に染まればいいと言った貴女を
朱に染めるのは私でありたかった。



「ケフ、か」
「……リリアス」



見開かれた瞳に光が戻って
優しい優しい菫色の瞳と
若草色の視線がかち合う。


どちらともなく引き寄せて
揺れる血溜まり
儚く消える、波紋一つ。



最後の口付けは
(脈打つ命の味でした)





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