だってそれは、年に一度の


【おめでとうを、伝えたい】





「ねぇリゼラ」
「リゼラは知ってる?」
「……なに、を?」


にこにこと楽しそうに笑うエアリスとティファに詰め寄られ、少々引きながらリゼラは首を傾げた。今日は雨で、次の街まで行くには辛いからと足留めをくらっているというのに、イベント事でもあるのだろうか。


「やっぱり知らないよね、普通」
「……ティファ、それじゃさっぱり意味がわからないんだけど」
「あのね、今日クラウドの誕生日だから、一緒にお祝いしようって」
「誕生日?今日?しかもクラウド?」
「「うん!」」


そう言って顔を見合わせて、二人は綺麗に笑う。
それを見て、なんだか嫌な予感がした。




******




「頼まれたものはこれで全部か?」
「ん?あぁそーみたい」


買い物袋いっぱいの荷物を下げて、宿屋への帰り道。誕生日会の準備をするからクラウドを宿屋に近づけないで!と言ったティファとエアリスに、不足している道具のメモと共に追い出されてから約2時間。クラウドも初めてきた町らしく、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、半分迷いしながら買い物をしていたらあっという間に過ぎていた。


「あと、買うものが無いなら帰るぞ」
「あ、あぁ…」


すでに荷物を抱えて宿屋へと向かうクラウドを追いながら、リゼラはポケットの中に入れた紙の内容を思い出していた。渡されたメモには2時間半程と書かれていた。ケーキを焼く、とティファが言っていたからには30分も早くクラウドに帰られては困るだろう。……というか、まず自分が怒られる。


「どうした?」
「や、……あ!装飾品屋あるじゃん!見てこーぜ?」


怪訝そうな表情を見せたクラウドの肩越しに見えた装飾品屋が、天の助けに思える。なんだかんだいってアクセサリーは、好きらしいクラウドを誘うには、絶好のチャンスに違いなかった。


「そう……、だな」


流石に唐突過ぎて、クラウドに変な顔はされたけれども、この際まぁよしとしよう。何の疑いもなく装飾品屋に向かってくれたクラウドに感謝しつつ、先行くその背を追った。





「いらっしゃい」


扉を開ければ、少し湿った木の香りとレコードの静かな音色が迎えてくれた。店の奥にひっそりと座る老人が店主らしく、こちらをみて微笑む。


「好きに見て、いいか?」
「お構いなく。こっちも勝手に見るから」
「、じゃあ」



言うなり壁際の棚に向かうクラウドは、どこかちょっと子供っぽい。そう思ったリゼラの口元に小さな笑みが浮かび、辺りを包む空気もくすりと揺れた。


「さて、選びますか?」


誰に問うでもなく呟いて、クラウドとは逆の棚に向かう。燻し銀の繊細な細工品がずらりと並ぶそれはどれも素晴らしく、思わず溜め息が漏れた。同じことを思っているのだろう、振り向けばクラウドも釘付けになって眺めているのが見えた。


「あ、お願いしていいですか?」
「はいよ」


目星をつけた2〜3点を見せて貰い、手触りと質感を確かめると買う事を決め会計をお願いする。店主が品物を包むために奥へと向かった時に、ふと一つの商品が目についた。


「あ、これも。さっきのとは袋、別にいれてくれる?」
「ん?はいはい」


商品を確認するでもなく、頼んだのは狼を象ったピアス。一目惚れ、と言えばそうなのだが何よりクラウドに似合いそうな気がしたのだ。


「ほいお待ちどおさま」
「ありがと、じゃあこれで」


しめて2万ギルを払う。包みをポケットに入れて、そっと窓際の棚でまだ銀細工を眺めているクラウドに歩み寄って肩を叩く。


「………、終わったのか?」
「うん。クラウドは買わないの?」
「俺はいい」


そう呟いてクラウドは颯爽と店から出ようと踵を返す。暇つぶしにはなったな、と呟く彼の口元が微かに上がっていたのは気付かなかった事にしておこう。






宿屋に戻ってからというもの。
クラッカーの音に迎えられ、騒がしい程のクラウドの誕生日会が行われた。ほとんど貸切状態だった為にヒートアップするバレッド達について行けず、こっそりとリゼラは部屋に戻ってベッドに転がっていた。


「いつ、クラウドに渡そう…」


手のひらにある小さな包みは先程買った狼のピアス。まだ一階でバレッドに捕まっているだろうクラウドに渡せず仕舞いでいたのだった。
茫然と天井を眺めていた時、扉をノックする音が聞こえてリゼラは身を起こし、ピアスのはいった袋をポケットに入れた。


「はい?」
「悪い、避難させてくれ」


かちゃ、となるべく音を立てないように部屋に逃げ込んできたのはクラウド。かなりくたびれた様子にバレッドの暴走っぷりを思い出して苦笑する。


「明日、怪しいな」
「ああ…」


べろんべろんに酔っ払ったバレッドを想像して漏れた言葉に、クラウドは溜め息まじりに頷く。この調子では明日晴れても出発は無理そうな気がしているのだろう。


「まぁ、もう一日休んでもなんとかなるだろ?」
「たぶんな」


そう問いかければ、クラウドは軽く頷きながら、視線の強さと相反したひねくれた言葉を発する。きっと明日の皆の様子を見て決めるつもりなのだろう。
ドタバタと階段を上り下りする音が過ぎ、リゼラは扉を少し開けて廊下を覗く。


「いったか?」
「…おそらく?でももう部屋いても平気だろうなー」
「わかった、悪かったな」
「や、別に」


そのまま扉を開けて出て行こうとするクラウドを、ただ見送ろうとしてリゼラはポケットにいれていた袋を思い出した。
閉まりかけた扉を慌てて掴めば、クラウドが瞳を丸くして唖然とした様子でリゼラに向き直る。


「……どうした?」
「あ、や、その」
「?」


いざ、と思い立ってみればなんだか恥ずかしい。理由は自分が一番よくわかっている、敢えていうなら男性にプレゼントをあげるのは初めてなのだから。


「これ、やるよ。
 誕生日おめでとうクラウド」
「……あ、ありがとう」
「じゃあおやすみ!」


ピアスの袋を投げ渡して、逃げるように勢いよく扉を閉めてズルズルとその場にへたり込む。なんだかとっても緊張した。
からかう様な雰囲気を醸し出す部屋の感覚が、今は凄く気に喰わない。


「別に、何もしてないって。何でこんなに緊張してんのあたし、馬鹿みたい」


誕生日プレゼント渡しただけじゃん!と自分に言い聞かせてリゼラは頭を振る。エアリスやティファのようにしっかりとクラウドの眼を見て言えなかったことが少しだけ悔しい。


「おめでとう、クラウド」


口の中でもう一度半幅させる。聞かせたい本人には届かないけれどどうか。


……明日、晴れますように。









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