夜風に吹かれてみゆるもの


【願わくばキミの幸せを】


月が綺麗な夜だったの。
太陽の光を受けて儚く輝く月を眺めながら、遠征から帰ってこない彼のことを思ってた。
そうしたら、いつの間にか寝てしまっていたみたい。
ベッドの上ではあったけれど、布団に潜り込まずに寝ていたせいで、どうやら風邪を引いたらしい。頭が、重たい。




「…心配、させちゃうかな」




"風邪ひいた"って、お兄ちゃんにメールを打とうとして、止めた。もとからあたしが彼と付き合っていることをよく思っていないお兄ちゃんにしてみれば、このぼんやりと熱に浮かされて頭の制御を無くした口から出てくる言葉はきっと、不愉快だろうと思って。





「はやく帰ってきてよ………ザックス」





呟いた言葉に返事なんかなくて、ただ静かに室内に霧散したソレがただただ虚しくて。あたしはろくに風邪の対策もせずに布団を被り直した。







その行動が風邪をこじらせる、なんてその時はすっかり頭から抜けていたんだ。









「………大丈夫か、リリアス」
「ぉにぃ、ちゃ…ん?」





眠った、と思って目覚めたら自分の部屋じゃなくて。目の前には見慣れたスキンヘッド、……お決まりのサングラスは今はかけていなかった。




「………連絡が取れなかった、から」
「……ぁ」



わしわしと大きな手で頭を撫でられ、哀しげなお兄ちゃんの瞳と自分のそれが重なって、結局お兄ちゃんを心配させてしまったことに回らない頭が気付いた。




「ごめん、なさぃ…」
「………」




あたしが謝ると、お兄ちゃんはふっと優しく小さく小さく微笑んだ。その笑顔に酷くほっとした。



「……食べられるか?」




差し出されたのは小さな土鍋。蓋を開けると立ち上る湯気とともに姿を見せたのは、あたしの大好きな玉子粥。嬉しい、とただ頬を緩ませている間に、お兄ちゃんはてきぱきと掛布の上にお盆を置き、取り皿にお粥を掬い取って軽く冷ましてくれた。



「……いただきます」




コクリと頷くお兄ちゃんをみてあたしはお粥を口に運んだ。そうしてあたしが玉子粥を食べ終わる頃、バタバタと足音を立てて部屋に駆け込んで来た人がいた。




「ルードーっ頼まれた薬ってこれであってるよなーっ?」



バタバタばたばた部屋に入って来たのは色鮮やかな緋色の髪、お兄ちゃんみたいにピシッと正装、ではなくて彼なりに着崩した服装の。





「久しぶりです、レノ…さん」
「レノでいいって何度も言ってるんだぞ、と、リリアス?」



薬が入っているであろう袋をお兄ちゃんに投げ渡して、颯爽と近付いてきてあたしの髪を手荒く撫で回すレノも、やっぱり心配そうな顔をしていた。



「仕事は…」
「今日は残業なしだぞっと♪
…なんせ、妹と連絡がとれないせいでルードが現場で大暴れしたからなー」




不安げに訪ねたあたしの頭を豪快に撫で、けたけた笑いながらレノは語る、本当ルードってばシスコンなんだからよー、と。



「……シスコンではない…」
「あっれ、聞こえてたか、と。失礼失礼♪」
「…………まったく」



ベッドサイドに薬と水を置きながらお兄ちゃんは溜め息混じりに軽くレノを睨んでいた。レノはまったく気にする様子なんかないんだけど、いつもの事だからあまり気にならなかったんだ。







「………ところで、リリアス」
「ん?なぁに、お兄ちゃん?」



レノが買ってきた薬を飲み終えて、再びベッドに横になったあたしに布団を掛けながら、ぽつり、お兄ちゃんは呟いた。



「…………何か………あったのか」




その言葉に驚いて、あたしは瞳を泳がせた。自分で馬鹿なことをしたと判っている所為かお兄ちゃんの顔をちゃんと見れなくて、掛布を顔まで引っ張ってちょっとだけ泣きそうになってしまったこの顔を隠して、お兄ちゃんの視線から逃げた。




「もーおねむかぁ?リリアスちゃーん」




助け。とばかりにかけられたレノの声に……どことなく企み顔でいやらしく微笑っている気がしてちょっと癪だったけれど、こくこくと頷くと、お兄ちゃんの諦めたような吐息をもらす音が聞こえた。




「……おやすみ、リリアス」
「ちゃんといいコで寝てるんだぞっと」



頭まで被った布団の上からふわふわと、優しく交互に撫でられて薬の効き始めていたあたしはすんなりと眠りに落ちた………。












「さって、これからどうすんだ?ルード」
「…………」


部屋を出てすぐにレノは問うた。それに対する返事は『判っているなら訊くな』という感じの困ったような視線。慣れた相棒の返答にレノは肩をすくめて小さく笑う。




「………あてに……している」
「おーおー、任せとけって」




階下に降りながら含み顔でレノは携帯を取り出し、アドレス帳から一つの番号を探しだして電話をかける。





その相手は…………もちろん
ソルジャークラス2nd
ザックス・フェア
こと、リリアスの彼氏。



遠征から昨日帰ってきたことは仲間の出した報告書でレノもルードも知っていた。その上で連絡が来ないとルードが心配して来てみた結果がこの通りだ。


リリアスの兄がタークスのルードである事を知らないザックスを不憫に思いながらレノは至って普通に電話で軽口を叩き、ザックスを近くのファミレスへと呼び出した。



















その後、ルードの手によってザックスに制裁が下されたことは

……言うまでもない。








(自業自得だぞっと)
(そりゃそーだけど………
これはひでぇよやっぱー…)

珍しく風邪ひいたザックスくん(笑)










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