利き腕に受けた傷を押さえ、バルガスは一行から距離をとるように跳び退さる。その間に分かたれていた距離を詰めてエドガーとロックの横に、長剣を構えたティナと短刀を持ったアルトが並んだ。


【繰り返される攻防の行方】


「チィ!こざかしい!!」

血走り、凄まじい怒気を孕んだバルガスの瞳がティナとアルトを捉え、睨む。完全なる殺意を向けられて身を竦めたティナを庇うべく、ロックがバルガスから視線を外して動こうとした瞬間だった。

「まとめて、あの世に送ってやる!!」

身体全身の筋肉をバネにして跳躍したバルガスの放った蹴りが、ロックの脇腹へと打ち込まれる。バルガスの放つ威圧に屈せずに警戒していたエドガーとアルトですら反応しきれない速さで、動くどころか声一つ上げる暇すら、無かった。

「ロック!! ロック!」

蹴り飛ばされ、地面に強かに身体を打ち付けたロックのもとへとティナが駆け寄り大慌てで詠唱を始める。淡い緑の光が彼女の周囲を取り巻くのを見たバルガスが追撃を掛けようと再度構えた体勢を崩すべく、エドガーが上段からアルトが足元へと攻撃を仕掛ける。

「甘い!」

上下同時に切りかかってきた横薙の太刀筋を小さく跳び、身を丸めるように屈めることでバルガスは体よく回避する。反撃を喰らわそうと瞬時に二人を見比べ、地面に近かったために勢いを殺さず受け身をとり、既に崩れた体勢を立て直していたアルトは捨て置いて、バルガスは体勢を直しきれていないエドガーへと狙いを定めて高く脚を振り上げた。

「やめろっ!!バルガス!」
「マッシュか!」

飛び出してきた声の主は真っ直ぐにエドガーに向かって振り下ろされたバルガスの脚を、易々と片腕で受け止め、薙ぐように腕を動かし威力を逃がす。いともあっさりと攻撃を受け流されたことが、悔しいのか腹立たしいのかは判らないけれどバルガスの顔が苦渋の表情に、歪む。

「バルガス、なぜ、なぜ、なぜ、ダンカン師匠を殺した? 実の息子で兄弟子のあなたが!」
「それはなあ…奥技継承者は息子の俺ではなく…拾い子のお前にさせるとぬかしたからだ!」

明らかに私怨じゃないか。とバルガスを呆れた様子で睨みつけ、アルトは呆然とその場に立って目を瞬いているエドガーの傍へと駆け寄る。まだ気を抜くには早いとその肩を叩こうとして、彼の視線が一点に釘付けになっていることに気付いた。

「ちがう! 師はあなたの……」
「どう違うんだ? 違わないさ、そうお前の顔に書いてあるぜ!」
「師は、俺ではなく……バルガス! あなたの素質を……」

エドガーとアルトを背後に、先程エドガーを庇った男――マッシュは言い淀んで、哀しげに俯く。その表情は、纏う雰囲気はこんな事態になってもまだ、兄弟子を信じたいという気持ちが溢れており、見ていたアルトは何故か胸が痛くなった。

「たわごとなど、聞きたくないわ! 自らあみだした奥義!そのパワーをみるがいい!!」

苛立ちを露わに声を荒立てて、バルガスは勢いをつけてくるりと身体を回転させる。その回転によって引き寄せた風を、己の発する気と共に真っ向からマッシュへと放つ。

「必殺!連風燕略拳!!!」

凄まじい威力の風がマッシュを、近くにいたエドガーとアルトを襲う。身長が低くおそらくもっとも体重の軽いアルトが真っ先に吹き飛ばされ、その手を掴み庇うように自らの腕の中へと抱き寄せたエドガーもまた、風に煽られ圧し飛ばされる。

「アルト!エドガー!」
「っティ、ティナ!風が止むまで動くんじゃない…!」

立ち上がろうとしたティナの手を掴み、ロックは彼女に覆い被さるようにしてその身を守る。苦痛に歪むロックの顔を見てティナは、無謀な行動をしようとしたのだと悟り悲しげに眉を顰めた。

「さすがはマッシュ!親父が、見込んだだけのことはある男」
「や……、やるのか…」
「宿命だ。そしてお前には俺を倒すことはできぬ!それもまた、宿命だ!!!」

自分だけでなく周りをも巻き込む非道な振る舞いを目の当たりにして、マッシュはたじろぐ。そんな弟弟子の様子を気に留める事もなくバルガスは容赦ない攻撃をしかけ続け、そのうちの一打がマッシュのある部位を強く突いた。

「ぐっ…」
「自らあみ出した二つ目の奥義、終死拳。フッ……お前の命も、後わずかだ!」

無遠慮に言い放ちバルガスは山肌を駆け上り、高みの見物を決め込もうとする。痛む箇所を抑えながらマッシュはその後を追い、脆い足場を飛び移りながらバルガスへと反撃を心みる。

「どうしたマッシュ!後がないぞ!!オラ、オラ、どうした!」

実力的にはバルガスの方が若干上なのかもしれない、と自身とティナの身体を起こしながらロックは思う。だんだんと山の上へと登りながら繰り広げられる攻防は、互角に見えて、若干マッシュが圧されているように感じるからだ。

「二人とも、大丈夫!?」
「ああ、心配いらないよ。ティナ」
「俺も平気。王様ホント大丈夫か?」
「軽いお前一人、支えきれなかったことの方が私としてはよっぽど悔しいんだが」
「あーそうッスか、悪かったな真っ先に吹っ飛ばされて!」

駆け寄ってきたティナに笑顔を向けてから立ち上がり、服に着いた汚れを払い落としながらエドガーは首を竦める。皮肉たっぷりのその言葉にアルトは顔をひきつらせて、立ち上がる際に借りたエドガーの手の平を思いっ切り振り払う。険悪な雰囲気を醸し出す二人を前におろおろと慌てるティナの頭を撫でて、ロックはわざとらしい溜め息を一つ吐いた。

「エドガー、アルトも。今はそんなことしてる場合じゃ」
「さて、そろそろ終わりにさせてもらおうか!」


呆れた様子のロックが二人に制止をかけるのとほぼ同時。頭上高くから悪意と確信に満ちたバルガスの声が響き、一行は慌てた様子で上を見上げた。





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