東街道の途中、道から少し外れた木の下で僕たちは焚き火をしていた。
砂漠に出没して村人を襲うというマモノを退治したのはいいけれど、ニーアさんの村に帰りつく前に日が暮れてしまって、これ以上の移動は逆に危険だということでここで野宿することになった。
野宿なんていつものことだしもう慣れた。ただ、今日はいつもと違ってニーアさんも一緒だというのが、ちょっとだけ嬉しい。
天幕なんて便利なものはないから、星空の下での野宿になるけれど、僕はそっちの方が綺麗な夜空が見えるから好きだ。
いつもならもう眠っているような時間なんだけど、なんだか眠るのが惜しいような気がして、用が無いのに僕はずっと起きていた。
パチパチという音をたてて薪がはぜるのをぼうっと聞きながら星空を眺めているとふいに、ふあと欠伸が出る。
もう僕の体には必要ない行為なのに、それでも自然に出てしまうのだから慣れってすごい。

「エミール、眠いのか?」

横にいたニーアさんが問いかけてくる。

「いえ、大丈夫です」
「眠いなら無理せず寝ろ」

剣の手入れをしていたカイネさんがその手を止めて、こちらを向いた。

「見張りは私がするから心配するな」
「そんな、僕がやりますよ!僕は少しぐらい寝なくったって平気なんですから、カイネさんたちこそ寝てください」
「馬鹿を言うな」
「そうだぞ、エミール」

ぴしゃりとカイネさんに言い切られ、ニーアさんも同意する。
馬鹿って…もう、僕は本気なのにカイネさんは本当に口が悪いんだから!
言いかえそうと僕が口を開くより先に、ニーアさんが優しい声音で僕に語りかけた。

「子供なんだから、あんまり夜遅くまで起きてると体に良くない」

だから、もうおやすみ。そう言ってニーアさんに頭をぽんぽんと撫でられる。
子供扱いされたことにちょっとだけムッとしたけれど、でもその態度が僕のありのままを受け入れてくれていることを現していて、気づけば僕は素直に頷いていた。

「…わかりました。でも、ニーアさんもカイネさんも、ちゃんと休んでくださいよ!」
「ああ、わかってる」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ、エミール」
「おやすみ」

ニーアさんの手が僕の頭を優しく撫でてくれる。
その温もりに、もう覚えていない僕のおとうさんを想像する。
ニーアさんがおとうさんならおかあさんはカイネさんで、シロさんはおじいちゃんかなぁなんて、幸せな家族の姿を思い描きながら、僕はゆっくり目を閉じた。



(それは夢のようなもしもの話)