「あーあ、またやっちゃった」

ぽつりと呟いて、空を仰いだ。
どこまでも綺麗な青い空が眩しくて、思わず目を細める。
洗濯日和の、いい天気。
家に帰ったら、久しぶりに布団でも干そう。
のんびりとそんなことを考えている間にも、
私の手に握られた凶悪なる刃物から落ちる血液はゆっくりと地面に血溜りを作っていく。
つん、と鼻を刺す鉄臭い匂い
制服についた返り血が、ぱりぱりと乾いていく。
早く洗濯しないと、また新しいのを買わなくちゃいけなくなってしまう。

だけど、動くのが面倒くさい
しょうがないからそのまま地面に座り込んだ。
お尻にひいた、スカートにじわりと血が滲んでいくのが分かって不愉快な気分になる。

「かははっ。何たそがれてんだよ」

聞きなれた、独特の笑い声がして、そちらのほうを振り返った。

「あぁ、人識」
「まーた派手に殺ったな、名前」

びちゃり、と血溜りを踏み越えて、人識はこちらにやってくる。

「人識、動くの面倒なの。だから私の家まで連れて帰って」
「あ?めんどくせーな」

口ではそう言いながらも、人識は私の身体を引っ張りおこした。
その後、背中を向けて、私がおぶさりやすいようにしてくれる。
私は、手の中のナイフ(一般的にシールリボルバーと呼ばれるタイプのものだ)の血振りを済ませると、
ソレを通学鞄の中に無造作に投げ入れ、人識の背中に飛び乗った。

「名前って身長高いくせに結構軽いのな」
「理想的な肉体でしょ」
「ところで名前。あのナイフくれねぇ?」
「シールリボルバー?」
「そ」
「自分で買えばいいよ。2万5千円くらいだしたら買えるから」
「最近レンアイしてねーから金ないんだよ」
「それじゃ、知らない。だってあれあげちゃったら私何も無くなっちゃうもの」
「えー」
「文句言ってもダメ。というか家族相手に泣き落としが通じると思わないで」

そんなどうでもいいことを話しながら、てくてくと人識は私をおぶって歩く。
平日の昼間だというのに誰も通りかからなくて、良かったと思う
血塗れの私を見られて警察にでも通報されたら大変だ。
いや、警察ならまだどうにでもなるが、人類最強の赤色を呼ばれた暁には私はきっと地面の下にでも埋まらなくてはいけなくなってしまう。

「レンアイしてーなー」
「すれば?」
「俺今あの赤色に追われてんだよ」
「あぁ…そっか」

そんな状況で誰かを殺して(人識曰くレンアイだが)いたら逃げれるものも逃げれないだろう。

「名前ー」
「なにー?」
「お前さぁ、自分が人殺す理由とか考えたことあるか?」
「理由、ねぇ…」

いきなり、何を言い出すのかと思ったが、人識の顔にはへらへらとした笑いが浮かんで居るだけだ。

「んーそうだねぇ。過去のことに関していえないけどさ。今日に関しては理由いえるよ」

少し、考えて、私はそう答えた。

「何だよ」
「ふふ、それはねぇ」

人識のピアスだらけ耳元に口を近づけて、“今日の理由”を話す。

「ということなのさっ」

自信満々につづけると、人識はまたかははと笑った。


「最低でしょ?」「傑作だ」



(むせるほど血が浴びたいなぁ、と思って)