「名前ー!! 今日も愛してるよぉおお!!」
「げっほ…タックルやめんか出夢!苦しい離せ消えろこれ以上私の前にあらわれんな死ね!」
「何、照れちゃってんの?かーわーいー」
「断じて照れてない…ってか離せや、マジ首絞めんぞコラ」
「名前こわっ! でも僕ぁそんな名前の事が大好きで大好きでたまらないんだなー!!」
「なんだお前Mかキモイぞ」
「ぎゃははっ、僕どっちかっていうとSだと思ってんだけど」
「うわ最悪だな」
「…ならどっちならいいのさ」
「普通が一番」

「…何コレ」
「おにーさんから聞いたよ。今日名前誕生日なんでしょ?なら僕としては祝うしかない、見たいな感じぃ?」
「ちっ…いっくんの奴余計なことしやがって…」
「ほら、人の好意はちゃんと受けとろーよ」
「ん……ピアス?なんでまた」
「だってネックレスとかじゃ付けてくんないじゃん?」
「…」
「やっぱ図星ぃ?」
「……」
「ほら、付けてよ」
「…しょうがない…か」
「ぎゃはははは、すっごい似合ってんよ名前」
「っ……ありがと」
「…」
「いきなり黙り込んで…どしたのよ」
「名前ー!!」
「ぶっ……至近距離からのタックルはやめろって言ってんでしょーが!」
「まさか名前からお礼貰えるなんて、僕思って無かったなぁ。やっぱ名前大好きだよ」
「…それはいいから上からどけ」
「えー、なんかいいアングルじゃんココ。あ、やっぱ名前胸大きい」
「っ…死ねボケ!!」

そんな会話をしたことすら、既に昔のことになって居るのに。
あんなに疎ましかったあの声をあの姿をあの存在を。
私が未だに記憶していることが、自分でもとても不思議だと思う。

「は?」
「だーかーらー、もし僕が死んじゃったらどーする?」
「せーせーする」
「そーゆーんじゃなくてさー……ほら、『出夢のこと忘れないよ』とか無いの?」
「なんかいらんドラマでも見た?」
「昨日理澄と映画見てたらそーゆーシーンがあったんだよ」
「なんだ理澄って純愛物好きなんだ」
「その台詞を言ったやつが『殺せば永遠に自分の物になる』とか言って恋人を殺ってたけどね」
「ホラーサスペンスかよ。紛らわしいなオイ」
「で、名前だったらどーするかなーと思ったんだけどなー」
「私だったらすっぱりさっぱりものの10秒ほどで忘れてやるよ」
「ぎゃはははっ、じゃー絶対忘れられないよーにしよっか?」
「悪いが私にそんな趣味は無い」
「ちゅーぐらいだったらOKじゃん」
「よし、まず手始めに消えろ」

全てがどこまでも鮮明だ。
あんなにも騒がしい日々が、なぜかとても懐かしくて。
一つ一つを思い出すたびに、芋づる式に他の事まで思い出されて。
胸の中で、ある感情が潰れそうなぐらいに膨らむ。
名前すら、分からない。どんな言葉でも定義できない、感情。
でも、それでも、その感情にあえて名前をつけるとするなら、これは恋なのだろう。
だから、私は、多分、あのときから、出夢のことが――。

「名前、愛してんよ!!」「私も」



(忘れたくても忘れられないから、覚えてる。)(覚えててやるから、もう苦しめないで)