「名前のそれ、おいしそう」
「食べる?」
「うん、食べたい」

ぼくがそう言うと名前は自分のフォークでケーキを一口分切って、それをそのままぼくの方に向けた。

「はい、あげる」
「えっ」
「食べないの?」

躊躇したぼくに首を傾げる名前。でもそのフォーク、名前が使ってたやつ。これって間接キス…だよね。
いつまでたっても食べようとしないぼくを見て、名前は慌てた声を上げた。

「あ、クダリもしかして回し飲みとか駄目なタイプ?だったらごめん、食べてないところを…」
「っううん全然!ぼく平気!」
「え、そうなの?じゃあ、はい」

全然見当違いのことを言い出した名前に、逆にこういうこと気にしてるぼくの方がおかしいって指摘されたような気がして、ぼくは首を振って否定する。
再びぼくにさしだされたフォークを、今度は素直に咥えた。
口の中にすごく甘いクリームの味が広がる。この中の何割かは、きっと名前の味。
すごくすごくおいしくて、いつも笑ってるぼくの顔、今はいつもよりずっと笑顔になってると思う。

「おいしい!」
「でしょー。私ここのケーキお気に入りなんだよね」
「へぇ、そうなんだ。じゃあぼくのもあげるね!」
「ありがと!」

今度はぼくが名前にケーキを食べさせてあげる番。
多めに分けたケーキをフォークに乗せてはい!ってさしだすと、名前は躊躇いもせずにそれを食べた。
「ん、やっぱこっちもおいしい!」って言って幸せそうな顔で笑う名前につられてぼくも幸せな気分。
なんか、まるで名前に餌付けしてるみたいな気持ちになっちゃったのと、口の端についたクリームを舐めとった名前の舌にドキドキしちゃったのは内緒。
ふたりであーんってケーキ食べさせあって、人がいっぱいいる場所でいちゃいちゃして、まるでぼくら恋人みたい。ほんとにそうだったらいいのに。
でもそう思ってるのはきっとぼくだけで、名前も周りの人も、ぼくらのこと仲の良い友達だとしか思ってないんだろう。
女の子同士だから、ただの友達でもこうやって名前といちゃいちゃできる。でも、女の子同士だから、ただの友達以上にはなれない。
どっちの方がよかったかなんて今のぼくには判断できないけど、

「クダリ、どうしたの?なんか元気ないみたいだけど」
「ううん、なんでも!それより、食べ終わったらどこ行く?」
「んー…クダリはどこか行きたいところある?」
「ぼく、ちょっと気になってるお店あるんだ。そこ行きたい!」
「分かった、じゃあそこね」

ぼくが沈んだ顔してたら、ぼくのこと心配してくれる。
ぼくがいつもみたいに笑ったら、おんなじように笑ってくれる。
そんな名前と一緒にいれるだけで、ぼくはすっごく幸せだから、今はまだこのままで居たいって思う。



(歌って 踊って 何も考えずに済むままに)