手持ち無沙汰に上を見れば、丸く切り取られた空に浮かぶ太陽が見えた。
いつのまにやら時刻は昼になっていたらしい。
どうりでお腹が空くわけだ、と一人納得してみるものの、だからと言って何が変わるわけでもなくて。
ぐぅ、と鳴ったお腹の音に隣から聞こえたくすくすという笑い声の主をとりあえず殴っておいた。
「痛っ」
「一体誰のせいでこんな穴の中にいると思ってんの!」
「落とし穴に目印を付けてない方もどうかと思うけど」
「あーもう!どーせ四年の綾部喜八郎でしょうよあの作法委員が!」
「それって悪口にはなってな…、」
「黙れこの不運委員長め」
「ひどいなぁ」と困ったように言う不運委員長こと善法寺伊作は無視して、
腹いせに壁を蹴ると衝撃で剥がれた土がぱらぱらとふってくる。
暑いしお腹は空いたし機嫌は最悪だ。
それもこれも両手いっぱいにトイペを抱えて困ってる伊作を見て
珍しくも助けてあげようかなんて気まぐれを起こした自分のせいであって。
数時間前の自分を本気で殴りたい!
でもまさかトイペを受け取って一緒に歩き始めた途端目印のない落とし穴に落ちるなんて誰も思うまいし、
しかもよじ登るには深すぎる穴の上に何時間待っても助けがいっこうに来ないなんて誰が予想できるものか!
「ほんとびっくりするぐらい不運だわ……。
さすが不運委員長、ここまでくるともうある種の才能か…」
「納得しながら言わないでくれないかなぁ」
「そう思わないとやってらんないわよこの状況。今日のご飯は私の好物なのに…!」
くそぅ!と言いながら頭上を見上げても誰かが通る気配すらしない。
いつもはがやがやと騒がしいくせに何で今日に限ってこんなにだれも通らないんだ。
「っていうか!なんで伊作はそんなにのんびりしてんのよ」
「そりゃあ、こんなのいつものことだし」
「あっ…あんたねぇ……!!」
ふにゃん、と微笑まれてぶるぶると拳が震える。
あんたはそりゃ不運ですから慣れてるかもしれませんけど!
こちとら穴の中には慣れてないんだよこのやろー!
「それに、」
伊作が再び口を開いたのを見て、もしくだらない理由だったらもう一発殴ってやろうかと拳を握り締め、
「このままだったらずっと名前と一緒に居れるだろ?」
……不意打ちすぎるんだよこのやろう!!
(不満が愛情へと、三秒で変わる世界)
突然に嬉しすぎたのでとりあえず伊作は殴っておきました。