「あ、こ、こんにちは、承太郎さん」
「あぁ」

ばったりと、偶然に承太郎さんと出会って、
思わずどもってしまった挨拶にも承太郎さんは全く触れずに、挨拶を返してくれる。
こういうとき、冷静さというか余裕というかなんというか、そんなものを感じて、この人は本当に大人なんだなぁと実感。
もしこれが、承太郎さんの甥である仗助君だとか億泰君だったりしたらきっとからかってきたり詮索してくるに決まってる。
同じ人間なのにここまで違うものなのか、とつらつら考えていると、ふと、承太郎さんがもっているものが目に入った。

「それ、」

なんですか。と問おうとして、承太郎さんのもっているものがボタンだということに気がつく。
つまり、承太郎さんは犯人探しをしていたのだった。

「?」
「あ、それ、例のボタン、ですよね? 犯人探しですか?」
「まぁ、…そんなところだ……な」
「そうですか…」
「…」
「…」
「……」
「……」

承太郎さんと歩くときは、私が話しかけない限り会話とよべる会話は全くない。
話しかけたとしても、大体2〜3言話すと終了してしまうので、人によれば会話と呼べないという人もいるかもしれない。
これは相手が私だからってわけじゃなく、大抵誰に対してもこんな感じで、
(ジョースターさん相手だと別みたい)(親子だし、色々あるんだろう、多分)
広瀬君はこの沈黙が苦手らしい。
確かに、沈黙はけっこう気まずいし、承太郎さんは妙に威圧感を持ってるから普段より気まずさ倍増なんだけれども。
実は私はこの沈黙が結構気に入っている。
承太郎さんといるときだけ味わえるこの空間は、たとえるならば図書館のような、そういう静けさがあって、
その静けさが私は大好きなんだ。
けれど、それは決して図書館がすきと言うわけではなくて、つまるところ、私は承太郎さんが好きだってことで。
承太郎さんは大人だから、私みたいな小娘なんて相手にしてくれないということは重々承知しているのだけど、
それでも私は一緒にいれるだけで幸せだと思う。
承太郎さんと並んで歩きながら、そんなことを考える。

ああ、願わくは、


(このまま時間が止まればいいのに)



「…元気がないみたいだが、大丈夫か?」
「へ!? え、いえ、全然大丈夫です!」
「そうか」
「あ、はい。 えと、心配…ありがとうございます」
「いや……いい」

細やかな気遣いが、とても嬉しくて、
承太郎さんと話せただけで、もう、本当に、幸せ!

(別に卑屈なわけじゃなくて、ほんとうにそれだけで満足なの)