(はぁ…)

隣を歩く彼に気付かれないように、私は心の中で盛大に溜息を吐いた。
そのままちらりと彼を盗み見れば、いつもと変わらない無感情な横顔が映る。
彼は遊星と比べても引けをとらないぐらいに無口で(ただ喋るときは結構喋る)、その上帽子を目深に被っているから表情も読めない。
そのせいで、何を考えているのか分かりにくい。
最初の頃はこれでタッグなんて上手くいくんだろうかと不安になったけれど、たった一度のデュエルでその不安はすぐに消え去った。
彼のセンスは素晴らしく、私のプレイスタイルに合わせたデュエルをしてくれる。
カードの読みも、効果発動のタイミングも完璧。
私の犯したミスだって、すぐさまフォローする。
そのおかげで、彼とタッグを組んでから私達は負け無しだった。
だからこそ、私がパートナーでいいんだろうか、と思う。
私よりデュエルが上手な人なんてたくさんいる。
聞いた話だと、遊星やジャックやクロウ、アキちゃんに龍可ちゃんと龍亞君だって彼とは知り合いらしい。
なのに、なんで私なんだろう。
彼が誘ってきたのだから、別に気にする必要は無いと分かってはいるものの悩みは尽きず。

(はぁ……)

本日何度目か分からない溜息を吐いたとき、彼が突然立ち止まり、私は彼の方を振り返る。
と、目の前にずいと何かの入った紙袋が差し出された。

「うん…?」

私にくれるんだろうか、そう眼で問いかければこくりと頷かれる。
ガサガサといわせながら袋を開けると、中から出てきたのは犬のぬいぐるみだった。
か、かわいい……!
ふわふわとした肌触りの言いぬいぐるみを抱きながら。「でも、突然どうしたの?」と彼に問いかける。

「…元気が、出るかと思った」
「え?」
「今さっきから、溜息を吐いてばかりいたから」

簡潔に呟かれた言葉に、心の中でしたはずの溜息が外に出てしまっていたのかと慌ててしまった。

「あ、いや、それは別にたいしたことじゃないから、気にしないで!」
「そうか?」
「うん! それより、このぬいぐるみすごくかわいい。ありがとう!」
「いや、俺は使わないものだし。喜んでもらえたなら良かった」

きっと、このぬいぐるみはアイテムスロットで手に入れたんだろう。
彼が、こんなかわいいぬいぐるみを貰って困惑する姿を想像してしまって、私の口から自然と笑みが漏れる。
なにより、彼が私を心配してくれていたことが何よりも嬉しくて、じわじわと広がる笑みを止めることができなくて。
それを見た彼の顔も、分かりにくいけれど少しだけ綻んだ気がして、うじうじ悩むのはもうやめようと心に誓った。



(私のパートナーを紹介します)