「ん…?」

夜中にふと目が覚めて、何か飲んでこようと部屋を出た。
ふあ、と欠伸をしたところで、ガレージからうっすらと光が漏れていることに気づく。
もう遅い時間だし、誰かがパソコンつけっぱなしで部屋に戻っちゃったとか?いやでも皆に限ってそんな失敗するわけないと思うけど。
不思議には思ったものの、光があるということは何かしらの電源が点いているということで。
一晩点けっぱなしは電気代の無駄だし消してこようかな、とそちらに向かうと、誰も居ないと思っていたガレージにはパソコンに向かう一つの人影があった。

「遊星?」

その特徴的な後ろ姿に声をかける。すると遊星はびくりと肩を震わせてこちらを振り返った。

「…なんだ名前か。あまり驚かせないでくれ」
「それはこっちの台詞だよ。こんな真夜中に何してんの」

私がそういうと、遊星はたった今始めて其のことに気づいたかのように「もうそんな時間だったのか」と呟いた。

「もしかしてまた時間を忘れて作業?」
「ああ。新しいプログラムを組んでいたんだ」
「作業熱心なのはいいけど、ちゃんと休まないとダメだよ」
「分かっている。これが終わったら休む」

口ではそう言っているものの、ワーカーホリックの気が若干ある遊星のことだから少し信用できない。
重ねて「本当?」と聞くと、遊星はこちらも見ずに「ああ」と言った。

「約束する?」
「…ああ」
「何その間」

…やっぱり信用出来ない。
私はつかつかと遊星に近づくと、未だにパソコンに向かっていた顔をむりやり私のほうへ向けた。

「なにをする」
「やっぱ駄目。今すぐ寝て」
「だからこれが終わったら、」
「いつ終わるかわかんない上に寝るっていったってまたそこらへんのソファで仮眠とかで済ます気でしょ?」

図星を指されたのか、遊星は私から目を逸らして何も答えなかった。

「そんなことして風邪引いたら、それこそ本末転倒でしょ。今日は私に見つかったのが不運だったと思って諦めて」
「だが、」
「反論は許しません。遊星が寝るのを見届けるまで私は監視するからね!」

はっきりそう宣言すると、遊星は観念したかのようにパソコンを閉じた。

「分かった。今日はもう寝ることにする」
「よし!」

満足そうに頷いた私に対して、遊星は苦笑気味だ。
寝るといったのにまた作業を始めさせないためにも部屋まで着いていくと主張したせいで、遊星からは「名前は本当に頑固だな」といわれたけれど私にだって譲れないものぐらいあるんだ。
というか、遊星だって十分頑固なほうだと思う。
渋々とでも形容するのがぴったりな様子で歩く遊星を私がぐいぐいと引っ張って、そのまま部屋の中まで連行する。
簡単にベッドを整えて(といっても布団をちょっと直すぐらいだったけれど)、さあ寝てくださいとでも言わんばかりにベッドを指し示すと遊星は以外にも素直にベッドに入る。
そこまで見届けて、私は「じゃあ、お休み。ちゃんと寝てよ」と一声かけて帰ろうとすると、なぜか遊星に手を引かれてなし崩し的にベッドに倒れこんでしまっていた。

「ちょっと、遊星」
「寝るとはいったが、条件がある」
「は、条件?」

目を丸くする私に、遊星はにやりと笑う。あれ、なにこれ嫌な予感がするんだけど。

「俺が寝るまで付き合ってくれ」
「え、なんで私が」
「眠れといわれても正直目がさえて眠れそうにないんだ」
「そんなの私のせいじゃないじゃない」
「だが、寝るのを強制したのは名前だし、ここは最後まで責任を持つべきじゃないのか?」
「なにその理不尽な言い分」

口では言い返すものの、未だ遊星に掴まれたままの手は簡単に離れそうにない。
これは離す気なんてないんだろうなぁ、と思うと抵抗するのも馬鹿らしくなって、私は観念すると遊星のベッドにもぐりこんだ。

「やっぱり頑固なのは遊星のほうじゃない」
「頑固じゃない、意志が固いんだ」
「どっちも同じでしょ。言っとくけど、妙なまねしてきたら遠慮なく潰すからね」
「潰す?何をだ?」
「あれ、男が潰される急所って言ったら一箇所しかないと思ったけど。言って欲しいの?」
「……いや、いい」

想像してしまったのか、眉をしかめる遊星にくすりと笑みを漏らすと、遊星もふっと頬を緩める。

「おやすみ、遊星」
「ああ、おやすみ、名前」

挨拶を交わして、目を閉じる。隣に居る遊星のぬくもりが心地良くて、私の意識はゆっくりと闇に融けていった。



(微睡みに揺蕩う)