「アキちゃん!」
どんっ、と背中に軽い衝撃が走る。
腕が首に回されていて相手の顔は分からないものの、相手が誰かなど確認するまでもなく私に対して抱きついてくるような人の心当たりはたった一人しか居ない。
出来る限り冷たい声が出るように意識して、背後の人物に声をかけた。
「…こういうこと、やめてって言ってるでしょう」
「えー、ただのスキンシップだよ。それより、おはようアキちゃん!」
「………おはよう」
自分でも愛想がないと思ったのだけれど、私のそんな態度も全く意に介さず、名前は隣の席を指差して「ここ、座っても良い?」と聞いてきた。
「別に、好きにすればいいわ」
「そう?じゃあ遠慮なく」
へらりと笑って席につくと、鞄から授業に必要な道具を取り出していく。
その合間にも名前は、昨日何処に行っただとかあのテレビ番組が面白かっただとか、私にしてみればくだらないようなことをとても楽しそうに話し出す。
「あ、今日実技あるね」
時間割を確認していた名前が、なんの気なしに呟いた言葉に身体が一瞬強張った。
「……そう」
「うん、3時間目。私実技苦手なんだよね。
デュエル自体は好きなんだけどさ、成績が絡むとどうも緊張しちゃって」
じゃあなんでアカデミアにいるんだよって話なんだけど、と冗談のように笑いながら名前は言う。
けど、そんなことよりも今は名前からいつあの言葉が出るのかと私は気が気でならなかった。
「アキちゃん、今日の授業は私とデュエルしよーよ。出来れば友達とデュエルしたい」
まるでなんでもないことのように、名前は私が怖れていた事を口にする。
名前は私の忌まわしい力のことを知らない。あの子は私がデュエルするところを一度も見たことが無いのだから。
私の力を知れば、名前だってきっと私を化け物と罵って私から離れていくに決まっている。
最初はそのほうが良いと思っていたし、私にかまってくる名前を鬱陶しいとも思っていた。
けれど、いつの間にかそれを壊したくないと思う程度に、私は名前のことを気に入ってしまっていた。
「悪いけど、他の人とデュエルする約束をしているの」
「え…、そうなの?」
「ええ。だから、貴女も誰かほかに捜したら?」
「そっか……。なら、仕方ないよね!」
誘いをきっぱりと断ると、名前は少しだけ悲しそうな顔をしたもののすぐに笑顔を取りもどす。
「じゃあ、今度実技するときは、私とデュエルしよ!」
「……そうね。気が向いたらね」
「むー、アキちゃんの意地悪」
ふてくされてしまった名前の言葉に嫌悪の感情は微塵も感じらないことに内心安堵する。
出来ることなら、名前にだけは嫌われたくないと、そう思ってしまう自分がひどくもどかしかった。
(暴走しそうになるこの気持ちがいつかあなたを傷つけそうで、それだけが怖くて仕方がない)
(だって、今だって貴女が他の人と楽しくデュエルするんだと思うと、憎くて憎くてたまらなくなる)