「そういえば、名前は何あげたの?」
「何が?」
「何がって、遊戯の誕生日よ」
「……え?」

休み時間の他愛も無い世間話の途中、杏子に話を振られた名前はきょとんとした顔で首をかしげた。

「え?」

まさかそんな反応が返ってくると思っても居なかったのだろう、杏子もきょとんとしている。
二人の間に沈黙が流れ、少ししてから名前が恐る恐る口を開いた。

「……なにそれ何の話?」
「名前……まさか、知らなかった…とか?」
「だってそんな話聞いてないよ!」

思いもよらない話を聞かされ、わたわたと名前が慌てだす。

「ちょ、わ、私、遊戯君のところ行って来る!」

そう宣言するやいなや、慌しく教室を出て行った名前を、杏子はただぽかんと見送ることしか出来なかった。


購買や屋上など、考えられるところを一通り回った後でようやく遊戯を見つけた名前は大きく息を吸うとその後姿に声をかけた。

「っゆ、遊戯君!」
「名前ちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
「どうしたのじゃなくって!」
「?」

走ってきたせいか、ぜいぜいと息を切らしている名前を遊戯は不思議そうに見つめる。
遊戯の視線を感じつつ、名前は呼吸を整えるために数回深呼吸をして、上擦りそうになる声を抑えた。

「あ、あのさっ、この前誕生日だったって、杏子から聞いたんだけど」
「え、うん。そうだよ」

こともなげに返された言葉に、名前は更に申し訳ない気分になる。

「私、それを知らなくて、お祝いとかしてなくて…ごめん」

深々と頭を下げた名前に、遊戯はぽつりと呟いた。

「実はね、ボク、名前ちゃんから何も無かったから少しだけ落ち込んでたんだ」
「ほんっとにごめん…!」
「ううん、知らなかったんならしょうがないよ。でも、ちょっと安心したかな」

えへへ、と笑う遊戯に名前も思わず笑みを洩らす。

「今更なんだけど、誕生日おめでとっ! プレゼントとか何がいい?」
「プレゼントなんて別にいいよ!」
「私があげたいの! っていうかあげなきゃ気がすまない」

そう言って、名前は「何が良い?さあ決めて今すぐ決めて!」と強引に遊戯に詰め寄る。
その迫力に押されたのか、「うーん…」と考えていた遊戯が、何かを思いついたのか
「えっと…じゃあ、ちょっと耳貸してくれる?」
と言った。

「ん?いいよ!」

素直に頷いて、名前は遊戯の方へと耳を向ける。
遊戯がごにょごにょと名前に囁き、それを聞いた途端、名前の顔が真っ赤に染まった。

「えっと…、名前ちゃんからキスして欲しいな」
「え!?」
「ご、ごめんっ。嫌なら別に良いんだっ!」

驚きの声をあげた名前に、慌てて遊戯は弁解する。

「べ、別に嫌じゃないよっ!」

勢いでそう言い切ってしまった後で、自分の言ったことを理解したのか「うー」だの「あー」だのと呟いていたものの、
暫くして腹を括ったかのように大声をあげる。

「っ遊戯君、目、瞑って!」
「えっ、…うん」

遊戯が目を瞑ったのを確認し、名前は自分と同じように真っ赤になった遊戯の頬に軽く口付けた。



(紅色した君の)