デパートの玩具売り場の一角にある、カード売り場。
そこに並ぶカードのパックを一つ一つ手に取り、真剣に吟味する城之内に私は後ろから声をかけた。

「うーん……どれにするか…」
「……早くしてよー」

私からの催促の言葉に、城之内は振り返りもせずに答える。

「分かってるけどよぉ、パックの中にどんなカードが入ってるかってのは決闘者にとってすげぇ重要なんだぜ?」
「あー、はいはい。分かった。思う存分悩みなさい」
「…これか…?いや、こっちか……」
「……」
「よし、オレの直感がこれだと言ってるぜ! じゃ、買ってくるからよ」
「いってらっしゃーい。私先に出てるからねー」

ようやく選び抜いたパックを手に、いそいそと会計に向かう後姿にそう言って、一足先に玩具売り場を後にする。
少しして出てきた城之内はご機嫌で、買ったばかりのパックを今にも開けそうな勢いだ。
とりあえずどこかで座ろうと、私は近くのベンチを指差す。
早くカードを開けたくてうずうずとしている城之内に気付かれないように、そっとため息を吐く。
学校でも家でも、休みの日でさえカード三昧の城之内に正直うんざりだ。
今は私と一緒にいるのだから、私だけを見て欲しいと思う。
実際、こんなこと口が裂けたって言えるわけなくて、私はいそいそとパックを袋から出す城之内を無言で眺めた。
手馴れた様子でパックを開いて、中のカードをざっと見た城之内の眼がキラキラと光る。

「!」
「何かいいカードがあったの?」
「おう!これ、見てみろよ!」

そう言ってカードを差し出されても、それをしない私には一体何がどう凄いのか全く分からない。
ただ、城之内の眼と同じようにカードもキラキラしているから、珍しいのだったりするんだろう。
とりあえず「凄いね」と無難な言葉と共にカードを返すと、「だろ!」と言って城之内は嬉しそうにカードをしまった。

「っし!家に帰ったら早速デッキを調整しねぇとな」
「帰ったらって、もう帰るつもりなの?」

まだ来たばっかりじゃない!と言えば、城之内は「う…」と言葉を詰まらせる。

「それもそうだけどよ……」
「でしょう?折角出かけたのに、すぐ帰っちゃったら意味ないじゃない」
「…でも早くこのカードを入れてデッキを組みてぇし…」
「だーめ!絶対に嫌だからね!」

何を言われても否定の意を示していると、城之内の態度は段々と下手になっていった。

「…やっぱ駄目、か?」

私の機嫌を伺うようにそう言った城之内に、母性本能(のようなもの)が疼く。
それは反則だろ馬鹿!という叫びは心の中にしまって、
「……私の家でやるんなら、別にいいけど?」
と言うと、城之内の表情がみるみるうちに明るくなった。



(惚れた方が負けなのか、絆された方が負けなのか)(どちらにしろ、私の負けに違いない)



「ちょ、足の踏み場がないくらいに散らばさないでよ」
「どっちのカードを入れるか……悩むぜ…!」
「人の話を聞け!」(バサッ)
「ぉわっ!? オレの魂のデッキが!」
「なにが魂のデッキよ城之内のばーか!」