「名前!」
「どうしたの、城之内」
「悪ぃ、昼飯代貸してくれ!」
「また!?」
「頼む!」

ぱんっ、と目の前で両手を合わせ頭を下げる城之内。
その姿を見て、名前はため息をつきながら鞄から財布を取り出した。

「仕方ないなぁ…」
「マジか!? 助かったぜ!」
「はいはい、さっさと購買行ってきなさい」

オーバーリアクションで喜ぶ城之内を購買へと送り出し、自分の弁当に手をつける。
一緒に弁当を広げていた杏子が、呆れたように「仲良いわね」と呟いた。

「…そうかな。そう見える?」
「十分見えるわ」
「うーん…そうかなぁ…」

ぶつぶつと呟きながら弁当を口に運ぶ名前を杏子はじっと見つめる。
視線に気付いた名前が顔を上げて、首をかしげた。

「どうしたの、杏子」
「名前」
「なに?」
「あんた、城之内の事好きでしょ?」
「げふっ!?」

杏子のセリフに、白米を咀嚼していた名前が盛大に咽た。

「き、気管に、ご飯が…!」
「あーもー、何やってるのよ」

げほげほと咳き込む名前の背中を杏子がさする。

「だっ、杏子がっ突然変なこと言うからでしょー!」

涙目で抗議する名前だが、杏子から「あれ、違った?」と聞かれると黙り込んだ。

「………いや、ほら、その、違うというか、違わないというか…」
「じゃあ好きじゃないの?」
「いや、そりゃ好きだけど、それは友達としてというかなんというか……。
っていうか、なんでいきなりそんなこと言うかなぁ!?」
「名前ってよく城之内の世話焼いてるじゃない」
「それはだから、友達としては当たり前っていうか、頼まれると断りづらいっていうか」
「ふーん?」
「だからその、友達だからであって、別に城之内だから特別どうということじゃなくて!
もし杏子が昼ご飯代足りないっていっても私普通に貸すし!それと同じことであって、だからえっと、その…!」

次第に混乱し始めた名前の頭を「あはは、ちょっとからかいすぎたわ。ごめんね」と言って杏子が撫でる。
「子ども扱いしないでよー」と言いながらも、名前はその手を振り払おうとはしない。
そこに購買から城之内が帰ってきて、不思議そうな顔で二人を見て「何してんだ?」と聞いてきた。

「何って、何?」
「私に聞かないでよ。それより、なにか用?」

杏子が聞くと、城之内は手に抱えていたパンのうちの一つを名前に差し出した。

「?」
「昼飯代の礼。ありがとな!」

そう言って名前の手にメロンパンを押し付ける。

「お礼って、あんたそれ名前のお金よね?」
「後でちゃんと返すからいいんだよ!」

という会話が繰り広げられている横で、名前はメロンパンを見つめたままだ。
それに気付いた杏子が「…どうしたの?」と声をかける。
城之内もどこか心配そうに名前の顔を覗き込んだ。

「…いや、なんでメロンパンなのかなぁ…って」
「? お前、メロンパン好きじゃなかったか?」
「え、好きだけど。なんで知ってるの」

聞き返すと、途端に城之内は顔を赤くして「べっ、別に何ででもいいだろ!」と言った。

「ダ、ダチだからな、好物くらい知ってて当たり前だろ!特別どうってわけじゃねぇからな!」
「え、う、うん…?」
「じゃっ、じゃあ、昼飯代はバイト代入ったら返すからよ!」
「あ、うん。分かった」

「じゃあな!」と言い残して、城之内は足早に教室を出て行ってしまった。
それをぽかんとした顔で見送って、名前は手の中のメロンパンの袋をじっと見つめる。
数秒後、一気に顔を赤くさせて慌てだした名前を見て、杏子はぽつりと「二人とも驚くぐらいそっくりだわ」と呟いた。



(「友達」なんてただの言い訳)(結局思っていることは同じこと)