「テメェ、今まで何してやがった」
「あら、ご機嫌斜めなのね。一体どうしたの?」
「オレ様の質問に答えな」

不機嫌そうに腕をくんだバクラに出迎えられて、開口一番にそう問われた。
携帯を見れば時刻は午後5時半。
いつもより少し帰宅時間は遅いけれど、まだまだ健全な時間だ、文句を言われる筋合いも無いだろう。
そう思ったけれど、バクラ相手にそれは通用しない。

「何度携帯にかけても出やがらねぇし」
「気付かなかったの、ごめんなさい」

大量に残された着信履歴のバクラの文字にはなんとなく申し訳なかったのでそこは素直に謝っておく。

「で、何してたんだ」
「何って、」

しつこく聞いてくるバクラに少し辟易する。
「私がどこで何をしていようが私の勝手でしょ?」と言ってみるものの、バクラがそんなことで納得などするわけもなく。
逆に機嫌が悪くなっていくのを感じて、別に隠すほどのことでも無いと出かけていた理由を話す。

「杏子と遊びに行ってたの。これで満足?」
「オレ様を置いてテメェは楽しんできたってワケか」
「そんなこと言ったって。
どこかに行く?って聞いてもめんどくせぇってぐーすか寝てたのは何処の誰だったかしら」

多少の嫌味もこめてそういえば、バクラはぐっと言葉に詰まった。
実際その通りなのだから、反論も出来ないだろう。

「何か反論があるなら聞くわよ」
「………チッ」
「反論は無いのよね?」
「何もねぇよ」

どうせ言えないだろうと見越して少し強気な態度に出れば、バクラは不服そうではあるけれど引き下がる。
けれども、それで終わりかと思っていたら質問はまだまだ続いていたようだった。

「行ったのはそいつだけか?」
「何これ尋問?私なにかの容疑でもかけられてるの?」
「茶化すんじゃねぇ」
「一緒に行ったのは杏子だけ。これで満足?」
「本当だろうな」
「ウソだと思うなら聞けばいいでしょ」

ただ遊びに行っただけなのに、どうしてここまで疑われなければいけないのか、と私の機嫌もどんどん悪くなる。
もう話は終わった、とばかりに部屋へ戻ろうとした私をバクラが呼び止めた。

「おい」
「っ、今度は一体何の、」

用?と続いたはずのセリフは、言い終える前にバクラに口を塞がれて消える。
振り向きざまのキスに、驚いて眼を見開いた。
私の反応を見て、バクラは面白そうにヒャハハハハと笑う。
勝手な態度にムッとしながら、内心の動揺を悟られないようにあくまで冷静に「…何の用?」と言葉を続けた。

「今度からどっか行くんならオレ様に一言言っていけ」
「どうして?」
「相手によりゃ、オレ様もついていく」
「………嫉妬でもしてるのかしら?」
「ふん」
「否定しないということは肯定という意味で解釈するわよ」
「勝手にしやがれ」

吐き捨てるようにそう言って、決してこちらを見ようとしないバクラに、今度はこちらからキスをしてやった。



(たまには言葉も頂戴よ)(…他の人に靡いても しらないからね)