ぎゃあぎゃあと言い争う声が忍たま長屋のほうから聞こえてきて、名前は足を止めた。
最初は無視しようかとも思ったのだけれど、聞こえたのが可愛い可愛い一年生のものとあれば無視するわけにもいかない。
そう思った名前はひょいと塀を越えると忍たま長屋へと降り立った。

「どうしたの?」
「「「苗字せんぱい!」」」

庭で喧嘩してたら先生が飛んでくるよー、なんて軽口を言いながら声をかけるとわらわらと周りに一年は組とい組の皆が集まってくる。

「せんぱい、サンタさんは居ますよね!?」
「え?」
「ほら先輩だって居ないって言ってるじゃないか」
「せんぱいはまだ何も…!」
「ちょ、ちょっと待って!」

団蔵の突然の質問に驚いて、名前が一瞬返答に詰まるとすぐさま佐吉が勝ち誇ったように団蔵に言う。
それに言い返そうとした団蔵を途中で遮って、名前はとりあえず二人を落ち着かせた。

「サンタさんって、クリスマスの?」

この中で一番冷静な庄左ヱ門が名前の質問に答えた。

「はい。僕達がクリスマスについて話してたら伝七達が来て、」
「サンタさんなんて居るわけないって馬鹿にしたんです!」

庄左ヱ門の言葉を乱太郎が引き継ぎ、他の皆もそうだそうだと同意する。

「それで喧嘩になっちゃったの?」
「はい!だから伝七達が悪いんです!」
「僕らのせいにするなよ!」
「だから、伝七達が先に言い出したんだろ」
「でも、手を出したのはそっちが先だ!僕らは悪くない!」

正に売り言葉に買い言葉。
一度は収まったかのように見えた喧嘩が再び始まったのを見て、名前ははぁ…とため息を吐いた。

「そんな喧嘩ばっかりしてる悪い子のところにはサンタさん来てくれないよ」

ピタリ、と面白いぐらいに全員の動きが止まる。
は組の子達が焦るのは分かるとして、い組の子達までどことなくそわそわしているみたいだ。
予想以上の効果に驚きながらも、名前は「だから、皆仲良くね。喧嘩はやめて部屋に帰ろ」と言った。

「「「……はーい」」」

大人しくぞろぞろと部屋に帰る小さな頭を見送って、名前もくのたま長屋に帰ろうとする。
すると「先輩っ!」と呼び止められた。

「うん?なあに?」

名前を呼び止めたのは彦四郎で、その後ろには一平と伝七と佐吉も居る。
全員がどことなくしょんぼりとしているのを不思議に思って近づくと、一平が再び「先輩」といった。
「ん?」
「…先輩、今の話、本当ですか?」
「今の話?」

名前が聞き返せば、一平は口の中でもごもごと「その……悪い子の所に、サンタさんが来ないって……」と続けた。
予想外の言葉に、名前は二・三度まばたきをして一平の顔を見る。
名前の返答を待つその顔はとても真剣だけどどこか不安げで、他の3人も心配そうに名前の顔色を窺っていた。
そんな彼らを安心させるように名前はくすりと笑みを漏らすと、身近にあった一平の頭をふわりと撫でて「大丈夫だよ」といった。

「っ本当ですか!?」

ぱっと四人の表情が明るくなる。

「うん。サンタさんは皆がいい子だってちゃんと分かってるから。でも、喧嘩は駄目。分かった?」
「はいっ!」

素直な返事に、よしよしと全員の頭を撫でながら、「サンタさんは居ないんじゃなかったの?」という意地悪な質問はやめてあげようと名前は思った。



(強がりに祝福を)


(安藤先生にちゃんとクリスマスするように言っとかないと!)