嵐が近づいてきているらしい。
雨は時間が経つにつれどんどん強くなっていくし、風はうなりをあげて吹き荒れ、
ときたま飛ばされた何かが長屋にあたって鈍い音を立てる。
このまま長屋まで吹き飛ばされてしまうんじゃないかと不安に思いながら、頭から布団をかぶって丸くなった。
別に、月の無い闇夜が怖いわけでもないし、風の音だって不気味だとは思うけれどたいしたことじゃない。
じゃあなんでこんなに震えてるのかといえば、
カッ! ピシャァアアン!!

(ひぃぃぃいいいいいい!!)

そう、雷が怖いのだ。
普段は誰にも気兼ねしなくて良い一人部屋ラッキーなんて思ってるけど、こういうときに同室の子が居ないのはかなり痛い。
一人じゃなかったらまだ安心できるのに…!
なんて悔しがってみるけれど今更どうしようもできることではない。
ユキちゃんたちの部屋に転がり込もことも考えてみたものの、
ただでさえ3人部屋なのに私まで行ったら狭すぎるし、こんななか外にでる気にもなれないので却下した。
昔は、こんな日は幼なじみの団蔵と共に震えながら夜を明かしてたのになぁ…。
感慨に耽りつつ、とにかく早く眠ってしまおうと硬く目を瞑ると、
視界が奪われた分聴覚が発達するのか、外の音が気になって逆に眠れない。
そういえば羊を数えれば寝れるとかなんとか聞いた気が……。
おまじないやらなんやらの類は信じてないけど今はそれにすがるしかない!
半ばやけくその気分で羊を数え始めたそのとき。

トントン。

(………?)

締め切っていた扉が不自然に鳴った気がした。
なにか飛んできてあたったのだろうかと思ったけれど、それにしては音が軽い。
被っていた布団から少しだけ頭を出して耳を澄ますと、ごうごうという風の音に混じって規則的に扉が鳴っていた。

(こんな天気に一体誰……?)

不思議に思いつつ、布団から抜け出て扉の向こうに声をかける。

「どちらさまですか?」
「あ、名前! ごめんはやく開けて!」
「団蔵!?」

外から聞こえてきたのは幼なじみの団蔵の声で、
慌てて扉を開ければ雨でびしょびしょな上にぼろぼろの団蔵が立っていた。

(これまでに大量の罠にかかったんだろうなぁ…。)

とりあえず、団蔵を中に招き入れててぬぐいを渡す。

「ありがと」
「いや、いいんだけど。
どうしたの団蔵、こんな天気なのに出歩いて、びちゃびちゃじゃない」
「こんな天気だから来たんだよ!」
「はぁ? 濡れるって知ってて?」

今だからこそ!みたいなこと言われてもその必要性がまったくわからない。
どういうこと、と聞こうとしたとき、一瞬眩い光が走りその後轟音が響いた。

「っきゃああああああ!!」

すっかり油断していたために、私は驚いて思わず目の前にいる団蔵に抱きついてしまう。
我に返ってすぐさま離れようとしたけど、そのときにはすでに私の背中に団蔵の腕が回されていた。

「だ、団蔵。ごめん、離し、」

カッ!

「いやぁぁぁぁあああああ!!!」

再び稲光が走り、ぎゅっと団蔵にしがみつく。
ぶるぶると震えて目を瞑っていると、団蔵に頭を優し久撫でられた。

「名前、カミナリだけは苦手だったから、今日も怖がってるんじゃないかって思ったんだ。
でも、来て良かったみたい」
「……団蔵ぅ…」
「僕が居たら、カミナリなんて怖くないだろ?」



(心臓を一捻り)



へへ、って感じで笑う団蔵に、図らずも胸がときめいたなんて口が裂けたっていえるわけが無い!