夏休み。一学期ぶりに加藤村へと帰ってきた。
久しぶりに父ちゃんと母ちゃんと一緒にご飯を食べて、自分の部屋でのんびりとしていたら、
どたどたどたという足音を響かせて幼なじみの名前が僕の部屋に駆け込んできた。

「団蔵おかえりーっ!」
「うわぁっ!?」

そのままタックルされて、僕は床へと倒れこむ。
女の子一人支えられないなんて、僕ってほんと情けない……。

「団蔵? どうしたの?」

ひょい、と名前が僕の顔を覗き込む。

「わわ…! べ、別になんでもないよ! それよりも、どいて!」
「そお? ならいいけど」

そう言って、名前は僕の上から降りた。
そしてへらりと僕の顔を見て笑う。

「久しぶり。学校はどうだった?」

僕が休みで村に帰るたび、名前は忍術学園の様子をききたがる。
は組の皆のこととか、委員会が大変だとか、学園町先生の突然の思いつきには困ったものだとか、
そういうくだらない話でも名前はいちいち笑ったり驚いたりしてくれて、
その反応が楽しくて僕は時間も忘れて学園であった色々な事件を名前に話した。
あらかたのことを話し終えたとき、
今まで楽しそうに僕の話を聞いていた名前が少し寂しそうな顔をして、

「いいなぁ。私も行きたいな」

と呟いた。

「だ、駄目!」
「どうして?」

慌てて否定をすると、名前は不思議そうな顔で聞き返す。

「ど、どうしてって…」
「団蔵、学校の話をしてるときすごく楽しそうなんだもの。羨ましいわ」
「で、でも、忍者の修行はすっごく厳しいんだ。名前はきっとついていけないよ」
「私これでも体力あるんだからね!
馬にだってちゃんと乗れるし、団蔵が大丈夫なんだから私だって大丈夫よ」
「大丈夫じゃないって! とにかく、絶対に、駄目!」
「えー……」

不満気に口を尖らせる名前には悪いけれど、でも名前が忍術学園に入学するのには絶対反対だ。
もし名前がくのたまになんかなったりしたら…。
名前はとても器用だし頭もいいから僕なんてすぐ追い抜いていってしまうに決まってる。
そんなの絶対に嫌だ!

「だって、昔は毎日一緒に遊んでたのに、いまじゃそんなことも出来なくて、私寂しいんだもの」
「え…?」
「だから、私が忍術学園に入れば団蔵と毎日会えるでしょう?」

だから、おねがい。
と上目遣いで言われて、思わずうん。と頷きそうになったけれど慌てて首を振った。
い、何時の間に名前はこんなこと覚えたんだ…!

「っそ、そんなことしても駄目なものは駄目だよっ!」
「えー、残念」

そういってぺろりと舌を出す名前にさっきまでの寂しそうな表情は全く見られない。
も、もしかして、演技…?

「えへへ、長く話しちゃってごめん。それじゃまた明日ね」

ぽかーんとしている僕を置いて名前はさっさと帰っていってしまう。
そのあまりの変わり身の早さとか、本当に名前はくのいちに向いてるなぁ…とつくづく理解した僕だった。



(負けられない!)