「名前!!」

勢いよく開かれた障子と共に飛び込んできたのは同級生。

「さ、左門? どうしたの!?」
「どうしたもこうしたもあるか! さぁ行くぞ!」
「え、えええ?」

混乱する私をがっしりと担ぎ上げて、開け放たれたままの障子から弾丸のように外に飛び出す。

「ちょ、ちょっと左門、どこいくの!?」
「どこって、そんなの決まってるだろう!」
「だからどこ!?」
「だからだなぁ! ん……えーと、…どこだったか…?」
「ほら、やっぱり分かってないじゃん!おろしてよ」
「むむむ…」

唸っている左門から、ようやく地面に下ろしてもらう。
風圧やらなんやらで乱れた髪などを整えて、辺りを見回して愕然とした。

「…どこよ、ここ」
「なんだ迷ったのか?」
「っこのバカ!」
「なにぃ!?バカとはなんだバカとは!」
「バカにバカって言って何が悪いのよ!迷ったのはあんたのせいでしょ!?」
「ぐっ……!!」

正論をぶつけてやれば、まさにぐぅの音も出ないといった表情で黙り込む左門。
左門を言い負かしたことに若干の優越感を覚えつつ、もういちどぐるりと周囲を確認した。
それほど長く走っていたわけでもないのだし、ここらはきっと裏山……行っても裏々山のふもとあたりだろう。
外出許可無しに外出してしまったから戻ったときに小松田さんに文句を言われるんだろうなぁ、と憂鬱な気分になる。

「太陽があっちのほうにあるから……学園はきっとこっちね。ほら、左門行くよ!」

いまだに「ううむ…」と悩んでいる左門の手を握って(迷子防止)森の中をずんずんと歩いていると、
突如左門が「ああっ!」と大声を上げた。

「な、何かあった?」
「思い出した!私は茶屋に行こうとおもっていたんだ!」
「……はぁ?」

訝しげな表情の私をよそに左門は一人でなにやら納得している。

「なんで突然茶屋なんかに?」
「藤内が、最近団子の美味い茶屋が出来たと言っていてな」
「へぇ、藤内が」

作法委員が何故だか女の子が好きそうなスポットに詳しいのは、きっと立花先輩の影響なんだろうなぁ。
などと比較的どうでもいい事を考えていた私に、左門はとんでもない爆弾を投下してくれやがりました。

「ああ。ただでさえ美味いのなら、名前と一緒に食えばもっと美味くなるかと思ったんだが」
「…………へ?」

左門の言葉を理解できずに、きょとんとしている私をよそに左門は一人で何度かうんうんと頷くと、

「そうと決まればすぐ行くぞ!」

と叫んで再びがしりと私の身体を担ぎ上げた。

「は、え、」
「俺についてこーいっ!」
「ついてこいも何も、これは無理やりつれてってるんでしょ!」
「そうかぁ?」
「そうよ! あーもうっ、おーろーせー!町はそっちの方角じゃなーいっ!」

この決断力のある方向音痴め!
叫んだ声が少し弾んでしまったことには、幸いにも左門は気付かなかったようだった。



(局地直下型タイフーン)(そしてそれを待ち望んでいる私)