びよんっ。

「きゃああああ!!」

どすどすどすっ。

「ひぃいいいい!!」

どごぉっ。

「どわぁあああ!!」

すぽっ。

「いやぁぁああああああ!!」

ひゅんっ。

「死ぬぅぅうううううううううう!!!」

踏んだら跳ぶ床板やら突如出現する槍やら頭上から落ちてくる岩やら深い落とし穴やら飛んでくる矢やら。
この忍術学園はいつからこんなに(私限定で)罠だらけになったのだろうか。

「先輩。どうしたんですか?」

現実逃避をしかけた頭が、ぐいと引きもどされる。
縄に足を取られ、逆さ吊りの私の前でにこにこと笑う彼が、一瞬本気で悪魔に見えた。

「ねぇ、兵太夫君」
「なんですか、先輩」
「私、何か兵太夫君に嫌われることしたかしら?」

そう尋ねると、兵太夫君はきょとんとした顔で「なんでですか?」と聞き返してくる。
なんで、と問いたいのは私のほうだというのに。

「だってこの罠、兵太夫君が仕掛けたんでしょ?」
「はい、そうですけど」
「わざわざご丁寧に私が朝使うルートを狙って」
「はい」
「その上最低限の罠で連鎖的に最大限の効果が与えられるような考え抜かれた配置で」
「そんなに褒めないで下さい、照れるじゃないですか」
「あはははは、 褒 め て な い よ ?」

照れくさそうに頭を掻く兵太夫君に笑顔で釘を刺す。
いや、まぁ実際末恐ろしい子だとは思ったけれどね!
素晴らしい才能ですよさすが作法委員会!
けれどそれとこれとは話が別!

「わざわざそんなことするぐらいだから、何か嫌われるようなことでもしたのかと思ったんだけれど」
「あはは。僕が先輩を嫌いになるわけないじゃないですか」

むしろ大好きなんです。
にこり、変わらぬ笑顔で告げられて寒気が走った。

「大好きな先輩が僕の罠にかかってくれる姿が可愛くて可愛くて、」

ざく、と土を踏む音。一歩兵太夫君が近づく。

「それに、先輩はいっつもすごく上手に罠にかかってくれるから、」

また一歩。

「僕、楽しくて堪らないんです」

さらに、もう一歩。

「だから、先輩、」

これからも僕の為に、罠にかかってくれますよね。
至近距離で微笑む兵太夫君に、くらりと眩暈がしたのは決して逆さ吊りのせいじゃなくて。



(蜘蛛に囚われた蝶々)



あぁ、もう逃げられないと悟った。