「あ、」
「あ!」

片やどこかうんざりしたような顔。
片や眩しいぐらいの笑顔で同じ言葉を口にした。

「滝ちゃん!」

名前の姿を確認した途端にもと来た道を戻ろうとする滝夜叉丸を、それよりも早く動いた名前の腕ががっちりと捕まえる。

「もー、逃げなくたっていいじゃない」
「せんぱいがこんなことするから逃げるんです」
「なになに、照れてるの? あーもう、可愛いなぁ!」
「違います! 放してください」
「やーだよ」
「〜〜っ!!」

ささやかな抵抗も軽くあしらわれてしまった。
名前はそんな滝夜叉丸の頭を、頭巾がずれるのも構わずにわしわしと撫で回す。

「滝ちゃん」
「滝ちゃんではなく滝夜叉丸です」
「じゃあ滝夜叉丸ちゃん」
「……」

即座の返答に、滝夜叉丸はちゃん付けを止めさせることを早々に諦めた。
それでもどこか不満そうな滝夜叉丸の表情に、名前は首を少し傾げてから
「可愛いは嫌?」
と聞いた。

「……可愛いより、かっこいいの方が良いです」
「そっかー…」

滝夜叉丸の言葉に、名前は「んー…」と何かを考えているかの様に呟いた。

「でも滝ちゃんはかっこいいっていうよりは可愛いんだもん」
「え゛?」
「え?」

名前の言葉に滝夜叉丸の動きがぴたりと止まる。
自分に自信がある分、名前の発言は滝夜叉丸に強い衝撃を与えたようだった。
固まってしまった滝夜叉丸に不安になったのか、名前は未だに自分の腕のなかにいた滝夜叉丸を解放する。

「どうしたの?」
「私はかっこよくないですか?」
「うん。可愛い」
「……」

あからさまに落ち込んでしまった滝夜叉丸に驚いた名前は慌てながら、
「で、でもほら、滝ちゃんはもとがいいから、大きくなったらすごくかっこよくなるかも!」
となんとも微妙なフォローを入れる。

「…」
「だ、だからね! 落ち込むこと無いって!」
「……せんぱいも、そう思いますか?」
「うん、勿論! …………え? も?」

満面の笑みで頷いてから、名前は滝夜叉丸のセリフの中におかしな点を見つけ首を傾げた。

「そうですよね! やはり私はもともとが良いからすぐにかっこよくなれますよね!」

そんな名前をよそに、滝夜叉丸は一人きらきらと目を輝かせながら一方的にまくし立てる。

「せんぱい、私はすぐにかっこよくなりますから!」
「え、あ、うん。…えーと、楽しみにしてるね?」
「それでは、失礼します!」

ぱたぱたと騒がしくその場を後にした滝夜叉丸の後姿を呆然と見送りながら、名前は「…私は可愛いほうが好きなんだけどなぁ…」と呟いた。



(Piccola presunzione)