びゅう、と風が吹いてコートの裾をはためかせる。
「寒い!」と叫ぶと、名前は肩をすくめ一層身を縮こませた。
それを見ていた小平太が、名前の横で何かを思い出したかのように「あっ!」と叫んだ。
「そういえば今日は雪降るらしいぞ!」
「えぇー…!? 道理で寒いわけだ…」
「あれ?名前はうれしくないのか?」
子供のようにはしゃいでいる小平太とは対照的に名前はとてもうんざりとした顔をする。
「だって雪が降ったら道路ぐしゃぐしゃになるし寒いし、いいこと無いよ?」
「雪降ったら楽しいじゃないか!」
「小平太は元気だねー。私はもう年だから、寒さが堪えるんだよ…」
「名前と私は同い年だろ?」
「まぁ、そうだけどさ」
そんな他愛も無い話をしながら、名前は少しでも寒さをしのぐためにコートのポケットに手を入れる。
「危ないぞー」と注意されて、「大丈夫だよ」と返そうとした瞬間、何かにつまづいた。
「っ!」
「おわっ!?」
こけかけた名前の身体を小平太が慌てて支える。
「ギリギリセーフ…!」
「ありがと、小平太」
「だから危ないって言っただろ!?」
「う…ごめん。…でも寒さには勝てないんだよ…」
小平太に怒られて、しょんぼりとする名前。
それでも言い返してくる名前に、小平太は「うーん…」と少し考えて、おもむろに名前の身体を抱きしめた。
「わっ!? な、なに!?」
「こうすれば寒くないだろ!」
「や、そうだけど…」
もともと体温が高いのか、小平太の体はとても温かい。
服の上からでも伝わってくるそれは、冷え切ってしまった名前にはとてもありがたくはあるのだけれども。
「…ここ、街中なんだけど」
朝なので人通りは少ないとはいえ、それでも誰も居ないと言う訳ではなく、先ほどから名前は他人の視線をびしばしと感じている。
だから抗議の意味も込めて言ったのに、小平太は首をかしげて
「それがどうかしたか?」
と言っただけだった。
「うん、いや、………まぁいいや」
「?」
「でもこれ歩き難くない?」
どうせ説明しても分かってくれないんだろうなぁ…と、名前は途中で諦めて話題を変える。
「じゃあ私が名前を担いで、」
「えー…これはまだ我慢できるけど担がれるのはごめんだなぁ…」
「うーん…じゃあどうしようか…」
本気で悩み始めた小平太に、抱きつくのをやめるという選択肢は存在しないらしい。
頭より幾分上にある小平太の顔をぼーっと眺めていた名前の視界の端に、なにか白い物が映った。
「あ、雪」
「え!? …本当だ!」
途端に小平太の顔がぱぁっと明るくなる。
少しの間、二人で降って来る雪を眺めていると、小平太が突然「よし、今日はもうサボろう!」と言い出した。
「えぇっ!?」
「大丈夫、長次に伝えとけばなんとかなるからな!」
「なんとかって…」
「そうと決まれば帰るか!」
きらきらした笑顔で小平太はそう言って、半ば強引に名前の身体を家の方向へと反転させる。
それでもまぁいいかと感じる辺り私も小平太がうつって来たかな・・・と考えながら、名前は後で長次にお礼メールをしておこうと思った。
(伝わるものは一つじゃなくて)